【特集1】 「浜田知章さんを偲ぶ会」全記録
【特集2】 長崎原爆・詩とエッセイ(下記、一部を紹介)
【特集3】 新鋭新人特集 ― 林 木林/亜久津 あゆむ/小坂 顕太郎
(特集2より一部を紹介)
『任務』 伊藤眞理子
神父の祝福を受けた
エノラゲイは
テニアンを飛び立ち
朗らかに任務を遂行した
無事 廣島が消えた
『フォールアウト』 伊藤眞理子
あの六十三年前のきょう 八月九日
早朝 テニアンを飛び立ったB29爆撃機は
十一時二分
長崎・松山上空に「でぶっちょ」を投下
アラモゴルドに次ぐ
人類二発目のプルトニウム二三九爆弾
四○○○度とも五○○○度とも
その火球の下の生きものは
無差別の殺意に灼かれた
爆心から東へ
二〇分後に始まった降雨と飛散物降下
フォールアウト
ストロンチウム九八 セシウム一三七など
自然界に存在しない アイソトープは
二○○種にも及んだ
そして 未分裂の
プルトニウム二三九
それは西山地区 西山ダム 西山浄水場
黒い雨は夜まで続いた
だれも知らない
目に見えない猛毒
八月十五日無条件降伏
九月十九日 占領軍によるプレスコード発令
民主主義国による言論封殺
禁じられた原爆被害の報道
それは六年半にも及んだ
あれから六十三年目の夏
かの国の原子力船がまた汚染している
微量だ安全だと放射能物質を
占領した国に漏らしている
『蝉の声のまにまに』 雀 龍源
焼けただれた乳房をあらわに その女の人は、写真の中で
生きてきた 生きている それはたぶん生きていくために
ナガサキに投下された原爆の証言者として たとえ無惨な
すがたをさらそうとも それは生きていくために 永久の告 発者として
蝉が鳴いている 八月の灼けるような路上に ぽとりと
汗が落ちては乾く――帰ってこんでよか お前は 東京で
暮らしを立てとっとやけん 母さんはひとりでよか
ひとりには 慣れととっとやけん おまえの好きなごとしてよか
――母さん 蝉の声にまぎれるように 僕はつぶやく ナガサキ・佐世保 弓張岳へ向かう坂道をのぼりながら
木の間がくれに 九十九島の海が見える
それはてのひらにつかめるようなかたち
ぼくは母の海をふと思う そこに
たゆたっていた日々のぼくのかたちを
木の間がくれに見えるちいさな海よ
この坂をのぼったり 降りたりした
高校時代 駅伝の練習で
苦しいとき 立ち止まりそうになったとき
母さんとつぶやいたりした
それは今でも同じこと 異郷の地で
今まで何度 ふるさとに ひとり住む母を
瞼に浮かべて 母さんと呼び続けたことだろう
あの女の人は子どもを産んだろうか 焼けただれた乳房を隠す ことなく
子どもに乳を与え続けたろうか 原爆の後遺症や影におびえな がらも
莞爾と人生を受け容れて 母として強く生き得たろうか
あっ ナガサキアゲハが 木の間がくれの海へ向かって飛んで 行く
母さんをひとり置き去りにして
日々の仕事のために また東京へ
戻らなければならない 母さん
ごめんね ぽとりとしずくが落ちては
乾く ナガサキに原爆が落ちたとき
母は 佐世保の海軍工廠で
事務員として働いていたという
あの女の人と母が重なる
蝉が激しく鳴いている 蝉のように
ぼくも鳴かずにはいられない
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