詩 の 原 故 郷 を 求 め て
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核兵器に身震いする想像力を
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広島原爆の日
「西日本新聞」2006年8月6日付 社説(再録)
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六十一年前のきょう、広島市の上空で、都市に対する人類史上初の原子爆弾「リトルボーイ」(少年)がさく裂し、一瞬のうちにおびただしい命が奪われた。長さ約三メートル、直径約〇、七メートル、重量約四トン。研究が進むうちに当初より短くなったことから、そう呼ばれたのだという。
その名を題にした「長詩 リトルボーイ」〔韓成禮(ハンソンレ)訳〕コールサック社)が、六日付で出版された。一九五四年生まれの韓国の詩人高炯烈(コヒョンヨル)さんが、原爆投下から半世紀の九五年にソウルで出版した詩集の日本語版である。
千葉県柏市在住の詩人鈴木比佐雄さんや、宮崎市在住の詩人本多寿さんら高さんの友人が出版にかかわった。
七九〇〇行を超すこの長編詩を、主に2人の「私」が語り進める。一人は朝鮮半島生まれの少年中輝(ジュンフィ)、一人は擬人法によるリトルボーイだ。

■「三兄弟」の死
アメリカのニューメキシコ州北部ロスアラモスで製造された三個の原爆の1個であるリトルボーイは、誕生の経緯と兄弟の死を語る。〈私の兄はニューメキシコ州南部のアラモゴード砂漠で実験用として死んだ。〉〈私が死んで三日目に長崎で後を追って死んだふとっちょ、われら三兄弟はアメリカのファンファーレ、アメリカの三重唱だった。〉
核搭載機Bエノラ・ゲイに積み込まれて太平洋のテニアン島をたち、六時間半後に広島上空に着いたリトルボーイは、〈落ちたくない〉と叫ぶ。
三週間前の七月十六日に彼は、「兄の死」に伴うすさまじい威力を目撃し、「自分の死」がいかに多くの人々を殺傷するかを知っていたからだ。しかし、Bの機体を離れ、パラシュートにつるされて地表から約五百八十メートルまで降下したとき、彼の体内で起爆装置が作動した。
その瞬間から地表で起きた惨劇は、もう一人の「私」である中輝少年の目を通して克明に描写される。詩句から立ち現れる光景は、丸木位里・俊夫妻(故人)の「原爆の図」のようにむごく、悲しく、息をのむ。
当時、軍都だった広島には、朝鮮半島から渡って来た数万人の人たちが軍人、軍属、動員学徒、市民として生活していた。強制徴用され、軍需工場などで働いていた労働者とその家族も少なくなかった。
慶尚南道陜川(ハプチョン)郡の出身者に特に被爆者が多いことから、陜川は「韓国の広島」といわれる。村が無人状態になるほど多くの人が広島に出稼ぎに行き、惨禍に遭った。長編詩を語る中輝少年も陜川生まれとして書かれている。
リトルボーイが殺傷したのは日本人と朝鮮半島の人々だけではない。中国人や、東南アジアからの留学生、米軍の捕虜もいた。原爆がいかに多くの国々の罪のない人々を無差別に殺傷したかを、この長編詩は思い出させる。
戦後長い間、日本の反核運動は深い対立と分裂を抱えながらも、「唯一の被爆国」における「二つの被爆都市」の記憶を語ることで世界に核廃絶を訴えてきた。
そのメッセージは、核保有国が戦争や国際紛争に直面した際に、核兵器を使う誘惑を振り払う上で一定の重要な役割を果たしてきた。
しかし、核兵器の増殖を抑える力にまではなっていない。リトルボーイをはじめとする「三兄弟」の誕生と死から始まった世界の核兵器は、六十一年後のいま、核弾頭の数にして一万倍の約三万個に膨らんでいる。
一九七〇年三月に発効した核拡散防止条約(NPT)は、六七年より前に開発した米・ロ・英・仏・中の五カ国を核保有国と定める一方で、それ以外の国の保有を禁じたものだ。

■揺らぐNPT
この条約は核保有国が増える「水平拡散」を食い止め、保有国内で核兵器の数を増やしたり高性能化したりする「垂直拡散」も抑えるのが目的だが、不満を抱く国も少なくなかった。
NPTに非加盟のインドは74年に初めて核実験を行い、九八年にも実施した。インドと対立するパキスタンもその年、核実験をした。
レバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラと戦争状態に陥っているイスラエルも保有の疑いが濃い。
北朝鮮は二〇〇三年にNPT脱退を宣言して核兵器開発を公言、イランもウラン濃縮など核開発につながる動きを強めている。NPT体制はいま大きく揺らいでいる。
核保有国でも新たな保有をもくろむ国でも、指導者は核の抑止力を計算するのは得意だが、核爆発がもたらすむごい光景を想像するのは苦手らしい。
長編詩のリトルボーイは、殺す側の苦痛に顔をゆがめて死んだ。中輝少年は、殺される側の悲痛を網膜に焼き付けながら爆心地をさまよった。
高さんは、核兵器のおぞましい威力と死の風景に身震いする柔らかな想像力で、一九八八年から七年をかけて核を直視する長編詩を書き上げた。こうした「持続する想像力」こそ、人類が久しく同居している核兵器と決別するうえで何よりも必要な資質だろう。

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