詩 の 原 故 郷 を 求 め て
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五色の音の架け橋   鈴木比佐雄
  ―クラリネット・田中正敏

オーケストラをバックに
モーツァルトのクラリネット協奏曲を吹く
田中さんのいたずら坊主のような
素顔を前に こう語りかけた

  一緒に釜山に行きましょう
  日本の本物のジャズを聞かせに
  メンバーはお任せしますから

  じゃ 右近茂を入れましょう
  実力のある彼にメンバーを任せましょう
  鈴木さん バンドのネーミングを考えてね

東京スピリッツ
東京ノクターン(噴火湾)
ユーラシアの風音
ユーラシアジャズバンド
五人囃子
星祭楽団
サウンドスカラプチャー(音の彫刻)
アースシャイン(地球照)
音楽の惑星
水の惑星
光の籠
音の籠
ミッドナイト鈴虫
サイプレス(糸杉)
Edge(エッジ、突端)……

  どうでしょうか
  五人囃子がいいですね
  でも東京も入れたいですね
  東京スピリット いや
  東京五人囃子ですか
  星祭楽団も捨てがたい
  欲をいえば架け橋という意味も欲しいですね
  じゃ 東京ファイブ・ブリッジはどうですか
  TFBですか そうしましょう

ベニーグッドマンのように
クラリネットを愛し
クラシックとジャズを共に愛し
田中さんは 真っさらな楽譜にするすると
国境をまたぐ五色の音の架け橋を描き始める

 

控え室の殺し屋   鈴木比佐雄
  ―サックス&クラリネット・右近茂

サックス奏者は
別室に連れて行かれる
金海国際空港入国審査で
入念にサックスやクラリネットが調べられる
開けられたケースの部品を一つ一つ手に取り
上下左右に見入る係官の眼差しは
拳銃、麻薬の匂いをかぎつける鋭さだ

ピアニスト、ベース、クラリネット、ヴォーカルに
素早くコードを指示し、リハーサルを終える
夕暮れから闇夜に光る
釜山文化会館控え室で
本番を待つサックス奏者は
高らかにテナーを吹き鳴らしたあと
サングラス越しの不敵な眼差しで語り始める
 
  今日も殺ってしまった
  このテナーサックスには銃が組み込まれていてね
  知り合いの女に頼まれてね
  その女を捨てた男を殺してきた
  おまえたち 分かるかい
  人を殺したあとは、寂しいものさ
  心が氷のようで こんなクールな気持ちで
  今宵もプレイするとしよう
  明日はどんな女から依頼があるだろうか
  どんな男を殺してしまうだろうか

釜山の夜が更け
サックス音色が響きわたる
音にこんなに色気があるのは
捨てられた女や多情な男の
尽きせぬ情念が乗り移っているからなのか
今宵 釜山の若者達をうっとりさせ
熱狂させるスピリットは何なのか

浜辺に打ち寄せられる異国の魂のように
韓国の恨がジャズの魂を引き寄せている
ハリー・アレンとテナーバトルを繰り広げた
ステージの殺し屋は
スタンダードジャズの伝道者となり
全身がサックスのリズムと化して
聞くものの皮膚を赤く染めている

 

釜山の夜空を仰いで   鈴木比佐雄
  ―ヴォーカル・福田良子

二十年前に坂本九の乗った飛行機が御巣鷹山に落ちた時
どんな悲鳴をあげたのだろうか
真似のできないパンチの効いた歌声が
日本人の心に永遠に刻まれて涙を誘った

黒いステージスにスポットライトが当たり
真っ赤なドレスを着た福田さんが現れた
会場に向かうバスの中で短い挨拶文を頼まれ
私は彼女の思いを拙い韓国語に訳して手渡した

一礼をして歌い始める
オペラ歌手のような豊かな胸元から発せられた
衝撃的な声量は会場の誰をも引き込んでいた
透明な歌声が胸の奥底に届けられ引っ掻き始める

  I look up when I walk
  So the tears won't fall
  Remembering those happy spring days
  But tonight I'm all alone……

英語の歌詞を終えると
サックスとピアノとベースがスイングする
即興的な演奏がこれがジャズだと語り続ける
ヴォーカルを恋い焦がれるように待ちながら

  上を向いて 歩こう
  涙が こぼれないように
  思い出す春の日  一人ぽっちの夜……

坂本九の魂が福田さんに乗り移り
二十年後の釜山文化会館で
日本語の「上を向いて歩こう」が奇跡のように響き渡る
きっと韓国人の胸にも悲しみが伝わっただろうか

福田さんはドレスと胸の間からメモを取り出す
  アンニョンハシムニカ パンガプスムニダ
  チョヌン フクダヨシコ イムニダ
  オヌルン チョデヘ チュショソ カムサハムニダ
  アプロ チャル プタカムニダ

  (こんばんわ お目にかかれて嬉しいです。 
  私は福田良子です。本日はお招き下さり感謝致します。
  これからも 宜しくお願い致します。)
満場の拍手の中で大切にメモを胸にしまい
深いお辞儀をし 次の「さくら さくら」を歌い始める

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