詩 の 原 故 郷 を 求 め て
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沈黙のメロディー   鈴木比佐雄
  ―ベース・酒井一郎

いい感じですね 問題ないですよ
私と連れだって長身の酒井さんは
他のバンドのリハーサルを聞きながら
ステージの音響設備をチェックする

数百万もするウッドベースを釜山に運ぶことが出来ず
釜山でも揃えることが出来ないといわれ
エレキベースを肩に背負ってやってきた
もの静かで頼りになる電信柱のような存在

東京ファイブ・ブリッジのリハーサルを聞き
ベースはジャズの背骨のような存在なのだと思った
そのまわりに華やかなサックスの音が絡みつく
ピアノと追いつ追われつ曲の骨格を仕上げる

ピアノの光がベースの影によって
音色がいっそう輝いてくる
サックスは二色の音に乱入して
虹色のような音をまき散らす

ベースは音楽の基本
音楽の原点は沈黙
沈黙に最も近い音がベース
酒井さんはベースそのものの存在

東京ファイブ・ブリッジの演奏した曲
My Baby Just Cares For Me 、鈴懸の径、
さくらさくら、上を向いて歩こう 
合同演奏した曲 聖者の行進、S.T Thomas、
アリラン、釜山港へ帰れ  
全てのベースを田中さんは一人で弾き続けた 

打ち上げのジャズクラブで見つけたウッドベース
他のメンバー達とお礼にといい閉店まで弾き続けた
ジャズを楽しむ心という基本を
韓国の若者たちに伝えてくれたナイスガイ

アフリカから連れてこられた黒人たちの悲しみ
そんなジャズの魂が日韓の深い溝を越える
二十一世紀は互いの痛みを共有出来る日が来るだろう
酒井さんはウッドベースを優しく愛撫し続けている

 

アリラン峠の少年   鈴木比佐雄
  ―ピアノ・八木隆幸

ジミー・スミスのオルガンを聞き
オルガン奏者になりたいと志した少年がいた
スミスの歯切れのいいオルガンの旋律に
少年は虜になってしまった

坊主頭の八木さんは
いつも少年の眼差しをしている
指先の集中力が鍵盤に注がれ 
右近さんの掛け声に会わせて弾き出される

天才的な記憶力で楽譜の必要がなかったスミス
八木さんの指先も譜面が一瞬のうちに甦るのか
オルガンからピアノに転向したあとも
経歴にスミスとの出会いを記すのは初心を忘れないため

ピアニストからアリランの調べが弾かれる
戦前この歌は日本軍から歌うことを禁止されていた
今その歌を韓国と日本の歌手が共に歌い
観客も一緒になって歌いはじめる

  アリラン アリラン アラリヨ
  アリラン峠を 越えて行く
  私を捨てて 行かれるあなたは
  一里も行かぬ間に 足が病む

  アリラン アリラン アラリヨ
  アリラン峠を 越えて行く
  高い空には 星くずが多く
  我が家の暮らしも もめごとが多い

韓半島の恨はいまもこの歌から流れ続ける
歌詞は恨みをつづっているが
メロディーはいつの日にか
再会や和解を夢見る希望の旋律でもあるのだ

釜山の野原で見かけたトンボはどこへ行ったか
夜の峠に向かって舞っているか
八木さんのメロディーは「釜山港へ帰れ」に代わり
観客は総立ちになって地鳴りとなって響いていた

夜の釜山文化会館にはジャズの合同演奏が響き渡り
終戦から六十年 日韓条約から四十年が過ぎ
日韓のアリラン峠を軽々と越えて
少年の眼をしたピアニストが虹の架け橋を奏でるのだ

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