釜山の果物 鈴木比佐雄
リハーサルのあと コモドホテルでシャワーを浴び
軽食を済ませてまた釜山文化会館に向かう
秋の街角には車道にあふれそうに
アジュモニたちが皿に果物を並べて売っていた
梨、蜜柑、林檎、栗、瓜のような果実
会館に向かう自動車から降りて
私は オルマイムニカ と
アジュモニたちに話しかけ
秋の果物を山ほど買いたかった
渋滞する車の脇で酸味の多い韓国の果物たちが
夕暮れの光を浴びている
梨、蜜柑、林檎、栗、瓜のような果実と
アジュモニたちの命は色濃く輝き始める
巨大なバタフライの羽
台風14号が釜山を叩いて
私たちが釜山の上空をさまよっていた頃
国際ガイドの李さんは空港で私たちを待っていた
その時に電話が入って
李さんの娘さんが交通事故にあったと
知らせが入り病院に向かった
李さんの娘さんの命は大丈夫だろうか
今夜のコンサートには来れるだろうか
会場の入口で関係者たちと話していると
半年ぶりの李さんが入ってきた
陽気な李さんが元気がない気がする
オレガンマニムニダ アンニョンハセヨ
良く来て下さいましたね
お嬢さんは大丈夫ですか
そういうだけで胸がいっぱいになった
足を傷めましたが 命には別状ありません
ケンチャナヨ
と心配を打ち消すように眼に光が射してきた
素敵なバンドを連れてきましたよ
コンサートを一緒に聴きましょう
お嬢さんの足が早く良くなるといいですね
(街角で見つけた秋の果物を持って
お嬢さんのお見舞いに行きたいです)
そう李さんに話そうと思ったが言葉が出なかった
コンサートを李さんは楽しそうに聴いていた
スズキさんとは 釜山を案内しながら
ゆっくりと お話ししたかった
また お会いしましょう トマンナヨ
秋の果物の香りと輝きを残して
李さんは病院へ戻っていった
民主公園のハルミッコッ 鈴木比佐雄
夜明けの釜山港は 銀色皿の水
さざ波で 海面がちぢみ出し
黒から灰色にうつろう無数の諧調へと
天上の誰かが 銀色の筆を点描している
コモドホテルの窓から
朝の一番船が行き来するのを眺めていると
五六島(オリョクド)の手前の海面に
天上から金色の光が注がれる
呼び出し電話が鳴り
国際ガイドの河さんが呼んでいる
釜山港の景色に後ろ髪を引かれながら
丹青で彩られたホテルを後にする
海雲台(ヘウンデ)に行く前に
もう一度釜山港を見せてくれませんか
民主公園記念館の展望台に行きましょう
鈴木さんの好きな野草も咲いているから
そこは韓国民主主義の苦難の道を考えさせられる場所
一九六〇年四月革命、一九七九年釜馬民主抗争、
一九八七年六月抗争の歴史を記した場所
民主公園は 自由の女神の篝火をオブジェにしていた
高台の周りは樹木園になっている
ツユクサの青色の花が飛び込んできた
ヨメナ、タデ、トラノオなど
日本でも見なれた野草が群れ咲いていた
その場所には翁草の写真があり
韓国語でハルミッコッ(お婆さんの花)と記してあった
なぜ銀色のビロードのように光る花を
日本語ではお爺さん草、韓国語ではお婆さん花なのか
韓国の民主主義を創り上げた闘士達を記録した場所
ここには四百種もの樹木や野草が息づいています
記念館女性職員の鄭さんは穏やかに語る
また いらっしゃってください お元気で
釜山港に日が昇り 旅人の私は帰り支度をする
眼下の釜山港は神々しさが消え 誰もが働き始める
デモクラシーパーク ここは釜山市内と釜山港が一望でき
民族和解を願う魂が地に降り注ぎ
野の花と化して息づく場所なのだ
洛東江(ナクトンガン)のアキノノゲシ 鈴木比佐雄
金海(きむへ)国際空港で待つメンバーを追って
車を走らせていると洛東江が見えてきた
台風の上空から見た険しい河面は穏やかだった
河さんに頼んで河原に降ろしてもらった
水草の浮く河に手を入れ掬った
韓半島の山河を削った濁りが
秋の日の光で目に沁みた
そして 手を浸して また戻した
一部がコンクリートで固められていたが
野草が水辺に広がる岸も多い
土堤には貴婦人のような上品な花
薄黄色のアキノノゲシが咲いていた
アレチノギク、ヒメジョオンのような野草が群生し
しゃがんでみるとイシミカワに似た野草があった
緑の玉が青や藍などに色づいてくるだろうか
この野草を上流に住んでいた少女も見ていただろうか
六十年前の記憶をもとに書かれた慶尚南道(キョムサンナムドの地図
釜山からの鉄道は、進永(チンヨン)、馬山(マサン)、文山(ムンサン)と進み
晋州に至る地図を妻の母が記した
晋州に流れていた河は洛東江から別れた南江だ
思想犯で捕まったクリスチャンの朝鮮教師を励ますため
祖父は何度も刑務所に出かけていったという
終戦時に殺された校長もいたというが
祖父は教師たちと別れを惜み白十字船で鎮海(チンヘ)から帰国した
洛東江の上流を眺めていると
背後から誰かが眺めている気がする
母や祖父たちだけではない
砧で白衣を打ち大昔のハルモニたちや古代人の眼差しだ
どんな情況であっても
ナショナリズムを越えた友情は存在するだろうか
独島(竹島)問題で揺れる間 我々を呼び寄せた
「朝鮮通信使」の金局長、李さん達の強い架け橋
河原に催促の携帯電話が鳴り
メンバーが空港で昼食をするからと待っている
美しい貴婦人の咲く秋の日の洛東江よ
アンニョンヒ ケシプシヨ(さようなら)
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