詩 の 原 故 郷 を 求 め て
株式会社コールサック社のグラデーション
浜田知章《山人舎文庫》
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◎戦後詩を後世に残す人…井谷英世さんの試み  
  戦後詩資料館・浜田知章山人舎文庫の開設株式会社コールサック社の役立つスペーサー鈴木比佐雄
◎『浜田知章全詩集』を読んで
  ・浜田知章という畏兄株式会社コールサック社の役立つスペーサー三谷晃一
  ・ふたつの詩集から株式会社コールサック社の役立つスペーサーたかとう匡子
  ・ぬるい詩は書かない浜田知章株式会社コールサック社の役立つスペーサー辻元佳史
  ・浜田知章と小野十三郎株式会社コールサック社の役立つスペーサー佐川亜紀
  ・詩におけるリアリズムのアクチャリティについて株式会社コールサック社の役立つスペーサー尾内達也

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  優れた詩や詩集やそれを生み出した詩誌運動の記録を後世に残したいと、かりにそのような純粋な構想を抱き私財を投げうってそれを実践する人がいたら、詩を書くものにとっては本当にありがたい稀有な存在だろう。けれども人の世は広い、そんな志を持った人物と私は八〇年代の後半に知り合うことになった。その人は北海道網走に暮らす井谷英世さんである。井谷さんは、なぜ詩人は無償なこのような詩作活動をするのか、その謎のような行為に惹かれて詩集を読み、集め始めたという。読み続けていくうちに、詩人に対して畏敬の気持ちが湧いてきて、すべての詩集を集めることは出来ないが、少なくとも詩人の原点が込められている第一詩集を集めることは可能ではないかと考えた。そしてそれらを五〇年、後一〇〇年後に残すため、多くの詩人に手紙を書き第一詩集を集めようと決意した。私のところにも手紙が来て第一詩集を送ったのだった。その後「COAL SACK」の購読をしてくれ私信のやり取りが始まり、井谷さんから私の保管できなくなった詩誌や詩集を送って欲しいとの便りがあり、今にいたるまで定期的に送り続けている。井谷さんは戦後詩人の第一詩集を含めた「戦後詩資料館」を構想し、実現をめざしていたのだった。
  九〇年代半ばに私は敬愛する浜田知章さんに井谷さんを紹介したところ、井谷さんは浜田さんと親しく交流するようになった。井谷さんからある時、詩誌「山河」のバックナンバーなどを含めた資料を浜田さんから譲ってもらえないかとの相談を受け、その橋渡しをしたことがあった。そんなこともあり浜田さんが蔵書の多くを寄贈し、浜田知章文庫をつくるという方向性が出来ていった。私は浜田知章論を書くため、浜田さんの既刊詩集の全てと「山河」全巻を借り手許にあったこともあり、浜田さんの年譜をつくり、文庫に置くようにしたらいいのではないかと提案した。そしてその作業をしているうちに、私は『浜田知章全詩集』を発刊しようという企画を抱き始めたのだった。その企画は多くの方々のご支援の結果、二〇〇一年春に実現することにができた。全詩集を発刊する際には、なかでも井谷さんからは多くの支援をしてもらい深い感謝をしていたのだった。また「戦後詩資料館・浜田知章山人舎文庫」も形が出来てきて閲覧も可能になったので、今までのお礼を直接言いたいこともあり初めて網走に行くことにしたのだった。
  女満別空港に降り立つと、浜田知章さんと浜田さんのお嬢さん文さんと私の三人を、井谷さんご夫婦は車で摩周湖に連れて行ってくれた。少しも俗化していない、噴火した河口がそのまま残りその底から湧き水が集まり、隠沼のような妖しげで、神秘的な湖だった。地元の人でも霧で滅多に全景を見ることは稀らしいので、その日は運が良かった。
  次の日には、井谷さん宅の敷地内に建てられた「戦後詩資料館・浜田知章山人舎文庫」をゆっくりと見学させて頂いた。戦後の膨大な詩誌や詩集がきちんと分類されており、その几帳面さは、まさに図書館秘書のように思われた。しかしそれ以上に詩を愛する井谷さんの思いが込められた戦後詩の資料館にふさわしいものだった。なかでも浜田さんの写真を額に入れて飾り、その下に寄贈された「山河」関係の資料は、ガラスケースに収められいて、「山河」同人たち、例えば長谷川龍生の代表作の生原稿などを見ることが出来た。また小野十三郎、大崎二郎など「山河」に関係した浜田さんと親しい詩人たちの詩集などもまとめられて配置されていた。私はこの資料群を見て、将来「山河」「列島」を調べるならこの「文庫」を訪れたいと、若い研究者たちがこの地に来て資料に見入っている光景を想像させられた。
  浜田さんと「列島」の仲間で、私とも親しかった鳴海英吉さんの詩書類も井谷さんにお送りし、「鳴海英吉文庫」として今整理をして頂いている。優れた詩やそれを生み出した詩誌運動をいかに後世に伝えるか、そんな問いを実践して形にしている井谷さんに私は畏敬の念を抱いた。そして私の出来ることがあれば協力していこうという思いを新たにしたのだった。
 

 

 山小屋風の詩の館にて   鈴木比佐雄

  今日は とても美しいものを見たな
  私の敬愛する詩人の手書き原稿、
  詩集、詩誌、蔵書類が
  山小屋風の図書館に
  すっぽり収まっていた
  北の大地には
  その詩人の価値を知る人物がいた
  裏山の野葡萄から絞った
  奥様の手作りの葡萄酒で乾杯した
  こんなに濃くて旨い葡萄酒を飲んだのは
  生まれてはじめてだ
  敬愛する詩人の父は昭和の初め
  鰊を追ってこの地を訪れていた漁師であった
  21世紀 息子の詩人は詩の種をこの地に蒔いた
  今はハマナスの咲く秋
  冬には流氷が押し寄せる酷寒の地
  春から夏には水芭蕉が群れ咲く地
  今日は 本当に美しい仕事を見たな

    (「COAL SACK」四七号より)

戦後詩資料館・浜田知章山人舎文庫 
責任者 井谷英世
住所 〒092-0181 北海道網走郡美幌町上町七
電話:01527−3−0260

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