【経歴】
1964年、東京都出身。成城大学大学院卒。川崎市立日本民家園学芸員。詩人会議会員。冊同人。詩集『朝鮮鮒』(小野十三郎賞)、『雨音』(共にジャンクション・ハーベスト刊)。
【詩の紹介】
果て
海は凪いでいる
雲の切れ間から落ちた光が沖を照らし
海のむこうに
もうひとつ
別の海が輝いているように見える
何も違わない
何も変わらなかった
海の色
空の色
この国の風の色
ひとの色
一九五六年 公式確認
一九七四年 漁獲禁止
一九九七年 安全宣言
むかしむかし
おおきなこうじょうがありました
こうじょうはうみにどくをながしました
どくをのんださかなはびょうきになりました
さかなをたべたひともびょうきになりました
けれども
こうじょうのしゃちょうのまごむすめは
おひめさまになりました
「COAL SACK」52号より
翻訳
韓国の研究者を
江戸期の舞台建築に案内する。
元は神社の境内にあり
祭りに芝居が奉納されました
通訳が伝える。
研究者が口をひらく。
ハングルの中に聞きおぼえのある音が浮かび、
その問いを通訳が訳す。
私は答える。
通訳のハングルにその音が再び浮かび、
研究者のハングルがそれをくりかえす。
ヤスクニ ジンジャ
いいえ、靖国に歌舞伎舞台はありません
研究者は軒の瓦を見上げる。
SONYのデジタルカメラを向け
シャッターを押す。
「COAL SACK」54号より
調査報告
聞き書きの最後に加えてほしいと
電話のむこう
かすれた声が言う
その人は
標高八〇〇米の傾斜地で
石垣を組み上げ、田を作った
その人は
馬鞍の両脇に繭かごを重ね
ふもとの町まで出荷した
その人は
伐採した杉を木製の車輪に載せ
山から曳き下ろして母屋を建てた
その人は
明治三八年生まれ
一〇〇歳で入院し
一〇一歳になって退院してきたその人が
ひとり電話をかけてくる
戦後C級戦犯に問われ
公職追放になりました
そのことを
書き加えてください
「COAL SACK」55号より


