「コールサック」日本・韓国・アジア・世界の詩人

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林 木林(はやし きりん)

【略歴】
山口県生まれ、東京都世田谷区に在住
中四国詩人会、「らくだ」所属

詩集『植星鉢(ぷらねたぷらんた)』、絵本『ゆうひのおうち』を発表
『生活語詩 二七六人集 山河編』に参加
【ホームページ】
http://www.geocities.jp/unimaru6_6/index.html


【詩の紹介】

海の見える喫茶店

鳥の花咲く散歩の途中
あれは白木蓮ですよというひとの
いえあれは白鷺なのです
花になりたいのですといおうとして
ふと、目に入ったのは
たまたま一軒の木の色をしてそこに
昔からあったような
けれど初めてみる喫茶店でした

窓の向こうに見えるのは
波を真似するカモメの群れと
あなたの顔に隠れた遠い島

珈琲の底からゆれてくるのは
私の瞳に映った珈琲に映った私の瞳

花びらが散ると私たちはときどき
鳥が飛んだり蝶が羽ばたいたり
することと見間違う
あなたは何も言おうとしない
白鷺の花はいつまでも蕾
飛べないのだとあなたは知っている

私はあれをはばたかせてみたい
けれどあなたは木をもう
見ようともしない
私の頭の向こうに隠れた遠い一本の木

私達は向かい合って
こうして座っているけれど
お互いの向こうの遠い景色を
見ることができなくなっているのですね

テーブルがはるかな砂浜のように
私達は遠い世界同士になって
波打ち際で言葉あそばせる
巻貝の殻のような言葉ばかりころがるけど
拾わない


雨は雨語で

葉のなかにうたう葉の緑語は森語族です
私は眺めつづけていなければ眠れない
ひとりでふざけあうのはやめましょう
たいてい
芽のなかで芽語が波立ち
雪のなかに雪語むくむくうたい
私たちの粒子逃げ惑う
踊りにも目をそらさずに

窓のそとから覗いていた
かつてまだ
この場所に光は光語だとおもってて眠い

波は海の鱗だから言葉になれるのだ
くすぐったく
風のなかで地球はせなかをかきたくなって
かきむしるから波は言葉になったのだった

私は旅の途中この駅の駅語を聴く
ねえ、島はどこですか
老人がたずねる日暮れの
それは赤とんぼの匂いのふるさとまで
ケチャップと乗って
縁側ですいかを割りましょ
ひめい上げるすいかの赤いしぶき
どこにでも赤い続きが溢れ
てさぐりのたび古く跳ね上がる
時が雪になる音のしない時代を
雨が雨語で
雪が雪語で
波が波語で
みんなが喋るの ここでは私が緑の群れ
森は森語で風語をゆするよ
木々は木々語で蝉語をあやすよ
海は海語で
砂は砂語で
空は空語で
月は月語で
星は星語で
島は島語で
沼は沼語で
霧は霧語で
葉語のなかにうたう綿毛語を躍らせて眠れ


花びらを飾った風

あたらしくなりたい
もうきのうの
あのあせてさびた空の色など忘れて
桜の花びらはそうおもいながらも
さびていく
それを毎朝のきしたからのぞいている
がらすのむこうを風が次の町へゆく
わたしはいつからこのようにして
花の色の華やかさをなくしてゆく様の方を
よりほほえましくながめるように
なっていたのか

しずかにやってきた雨音の向こうから
また花がしおれている最後のささやきが
風にのってやってきて
瞬間が次々おわりながらはじまっている
野のおくをとおく誰かの話し声が渡る

かごの中のキャベツをとり出して
いちまいいちまいめくるときのように
いちねんいちねんなんて
とおくさかのぼるたびに芯のような
手のひらをどこまでも握りしめている
はためく洗濯物の真っ白な空のむこう

もうなにもあきらめたりしない
あたらしくなりつづける時間に向かって
犬がいつまでもほえ続けている
散り急ぐ花びらをみてほほえみ続けたままの
写真の中の祖母もまた
夢を生涯握り締めたままで
今日は私の窓の空を過ぎてゆく
花びらを飾った風である
私も今日を生きながら
未来の窓の空を過ぎている
花びらをかき集めている風である


渚の声           

たいていそのうす緑色の瓶の向こう側ときたら
野の草を揺らしながら
それでいて何か透き通る
何だってその向こうに月が出れば
いいえ、沈みかけの太陽の光でもよいので
ラムネ瓶のふりするぐらいなら
割れてしまう前に一度だけ
ゆすられて

大の字になっているのは
交差点の数だけ数え切れないぐらいの
道は巨木の根のようで
どこに空を横たえているというの
私は
何もないような空っぽの風船のように
歩いているのだけれど
自分の中をからっぽでいっぱいにして
何がそんなにも満ち足りないのだろう

五月が風の匂いをつれて行く
遠くの私たちは
手をふりながら私を見送る
小さな手も大きな手も
シワシワの手も
みんな私の手にちがいない
私は明日へと枝を伸ばす
どこかで葉がゆれて花がつぼみをつけて
私はいつまでも枝を伸ばす
野のはずれには光がまだ
残っていて
野良犬が走っていて
渚の声でセミが落ちる


鯨一粒

まるいお碗の海に
一粒残った米粒のように
一粒鯨が浮かぶ

その鯨一粒が
どこかを泳いでいる気配があるから
その鯨一粒が
どこかで倒れて沈んでいった気配があるから

五月の風のふりをしながら
窓辺に吹いている気配があるから

それを感じる私が
私の中に景色を遠くまで創ってゆける
胸の中に別の星へ続く
坂道を通して
坂をのぼっているようでいて
空におりている

ときどき波がはばたいている

鯨は背中に無人島を乗せている
その鯨こそが
子供の頃からみてみたかった
ただ一粒のシロナガスクジラ
どこまでも夢が果てしないかぎり
鯨は泳ぎ続ける

ひだまりが続く
五月が続く
明日が続く
窓に緑が押し迫る
砂時計をまた逆立ちさせる
窓に光が射してくる
私はまた紙を破り捨てる

砂浜をこともなげに破るように
渚でできた紙の裂け目を見つめているうち
その沖の方から
鯨が潮を吹いて泳いでくる
そう書いてある

ゴミ箱に今日も
鯨のことを書いては捨てている
たくさんの渚がしわくちゃに
折り重なって
私はふたたび皺を伸ばして
波をめくって鯨の居る場所を開いてみる



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「COALSACK」(石炭袋)96号 2018年12月30日

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