「コールサック」日本・韓国・アジア・世界の詩人

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水崎野里子(みずさき のりこ)

1949年東京生まれ。早稲田大学、同大学院博士課程修了。早稲田大学、立正大学の講師(英語)を経て、現在東洋大学、駒沢大学、大東文化大学各講師。『柵』『潮流詩派』『COAL SACK』『光芒』『POEMS OF THE WORLD』(英語詩誌)などに作品を発表。
翻訳詩集:『現代アイルランド詩集』『現代アメリカ黒人女性詩集』『現代アジア系アメリカ詩集』『デイヴィッド・クリーガー詩集/神の涙』、日英対訳現代日本詩アンソロジー『ドーナッツの穴』など
創作詩集:『アジアの風』『俺はハヤト』『二十歳の詩集』『ゴヤの絵の前で』他
エッセイ集:『英米の詩・日本の詩』
英語詩集:Ode to the Sunflower
アンソロジー参加:日本・ネパール合同詩集『花束III, IV』、"6 POETS-3CONTINENTS"(英語アンソロジー)
所属:Cove/ Rincon International(スペイン語系詩人クラブ)、
    World Academy of Culture終身会員
    日本現代詩人会、日本詩人クラブ、千葉県詩人クラブ、日本文芸家協会他
水崎野里子のホームページ
  http://www1.odn.ne.jp/~cat32320/indexjp.htm


【詩の紹介】

子どものためのおばさんの詩
―ガジュマルの樹

あんた ガジュマルの樹って知ってる?
沖縄の樹 常緑樹で
いつも緑の厚い葉っぱがうっそうと重なっている
幹は太くてがっしりと地に生え
蔦がからまっていたりして
図太く 無数の枝を支えている
大気にそびえる 大きな傘

小高い丘に生えていた
小さな公園に
誰かの庭に
どこにでもあった
沖縄で

ガジュマルは見ていた
戦争を
平和を
人々の笑いを
人々の幸せを
涙を 血を

そして 見続けるだろう
太い幹はがっしりとそのまま
厚い葉っぱは台風もなんのその
沖縄の土に 深く広く根を張って
永遠に わたしたちを
沖縄の人々を

熱いひでりには
涼しいその木陰で
わたしたちは汗を拭う
憩う

覚えていてね
沖縄の樹

 

裏町の銭湯

ある裏街
にょろにょろと入り組んだ路地
ちょこまかと歩いて行く
と 目指す 銭湯の藍のれん
のれんを分け
下駄箱に履き物を入れる
番号札を取るのを忘れず
さあて お風呂に入るんだ

寒いから あわてて衣類をロッカーに押し込む
タオルと石鹸忘れずに
ガラス戸を開けて
早く いざ風呂場へ

泡噴出の湯
ワインの湯
薬用湯
水だけ
このごろの湯にはいろいろある
今日はどれに入ろうか

気楽な仕事の合間の一人の湯
息子も夫も うるさいのは忘れた
あったか湯に 一人でフカフカ
いい湯だな
髪を洗っていると
シャンプーの蓋が流れちゃった

おくさん!ここよ!
裸のおばさんが 向こうでニコニコ
ホラ!と拾ってくれたシャンプー容器の蓋
流れちゃうとこだったのよ
ありがとう!

裸同士の女の仲
どこに住んでるの?
千葉県よ でもここに週一日下宿してるの
仕事の関係
あらそう 仕事って?
英語の教師よ
塾の先生?
いや・・まあ・・大学で教えてるの
おばさんは?
いやちょっとね このそばに
息子と
住んでるの?
ああ・・・いや・・まあ・・

一緒に今日は 一緒のお風呂場
一日だけの お友達 
一緒に泡のお風呂 フカフカ

いろんな人生
銭湯の湯の煙

 

古い旅行鞄
―二00五年八月・リトル・トーキョーにて

バスは走る リトル・トーキョー
白く 渇いた太陽
街中 迷って降りた 私のうろうろ歩き
彷徨の左手に 西本願寺のまぶしい固い建物
広い空間 向こうにホンダの広告掲示板
歩き 歩いて やっと見つけた日系人博物館
教えられた通り ガラス張りの近代的ミュージアム
言い訳のように 向こうに古い鳥居がちょこんと居座る

とうとう来た ここに
長い時間と空間の果て そのまた果て
幾層もの暗闇が重なる 剥ける 剥き出しになる
そして 弾ける

何層にも積み上げられた
古びた旅行鞄の山
古びたパスポート
しっかと保存された 
強制収容所の一部 朽ちた木材
砂漠の果てから運んで来た 遠い歴史の嵐
部屋には明かりがない

幾多の写真の展示 
収容所の庭にずらりと居並ぶ女たち
若い日系人の兵士は星条旗を掲げる
砂漠の果ての 無念の歯ぎしり 

外は あっけらかんと白い ロスの太陽
暗い部屋の 旅行鞄の山
黴 泥 汚れ キズ
それらは時間の中で 凝固する
そして静止する 

永遠の
砂漠の嵐 
歴史の
苦い鉄条網 
今日も移民達は訪れる 
暗闇の部屋へ
同じ 重い旅行鞄を携えて



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