「コールサック」日本・韓国・アジア・世界の詩人

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平井 達也 (ひらい たつや)

<経歴>

1964年 愛知県生まれ、東京在住。

1987年 早稲田大学第一文学部卒業

2003年 小説「ルーズソックス・ブルース」で自治労東京文芸賞受賞

2008年 放送大学大学院修了 修士(学術)

2011年 第一詩集『東京暮らし』(コールサック社)



<詩作品>


球 技

一年ぶりに帰った郷里
自動車工場とプロ野球の街
父母が暮らす家の裏の広い通りには
なぜか斎場がいくつも並び
葬式通り と呼ばれるようになった
葬式通り界隈には
私と同じ年頃の男たちが何人も
親元に暮らしていて
不規則な時刻に非常勤の仕事に出てゆく
この秋
かつては日本で最も売れていた
国民車の輸出停止が検討され始めた
やがて街からは工場が消えるのだろうか
インドを走る車はインドの
ブラジルを走る車はブラジルの
工場で造られるようになる


私が絶望工場という本を読んだのは
東京の大学に出て間もないころ
父は工業高校出で
一工員で終わった
今 暖房の効いた部屋で
一年のプロ野球を振り返る
テレビ番組を真剣に見ている
チームは今年最後まで日本一を争った
郷里の熱狂がどれほどのものだったか
東京でキーボードを叩いていた私は
知らない


葬式通りを一時間かけて散歩してきた
スーパーマーケットでは
すき焼き用に牛肉が売られていた
老いた親と住む
非常勤雇用の息子たちも
すき焼きをつつくのだろうか
明ける年の希望を語るのだろうか
インドでもブラジルでも
ジンバブエでもトンガでも
明ける年の希望は語られるのだろう
絶望工場があちこちに建てられようと
そこにはボールがあり球技がある
ボールを追う子どもらの輝く目がある



おい 東京

おい 東京
おまえのふところに飛び込めば
きっと夢がつかめると
暮らし始めて二十年が経った


おまえの内臓はでかすぎて
深すぎて
いまだにその中で
浮いたり沈んだりしているだけだよ


はじめ考えていたことも
もう ときどき
忘れてしまうようになった


あの子と出会い
あの子を守ることだけは
がんばろうと思ったけれど
それもだめかもしれないんだ


おい 東京
そうすると悪酔いしないというから
今夜もきゅうりを齧りながら
おれはおまえに
おやすみをいうよ


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「コールサック」(石炭袋)117号 2024年3月1日

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