「コールサック」日本・韓国・アジア・世界の詩人

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海埜今日子(うみの・きょうこ)

略歴
東京生まれ。
詩集『共振』(W ネット)、『季碑』『隣睦』(共に思潮社)、
詩誌『COAL SACKl』『hotel 』『すぴんくす』
『リタ』(http://www.t-net.ne.jp/~kirita/)他。
自分のことを書くのが苦手です。けれどもホームページ『大字豹』
( http://www.haizara.net/~kirita/umino)で5の日に日記を更新しています。詩の場所について、詩の際について、その周辺にまとわりつくようなことを、なるべく書いています。その場へ接近しようとするわたしが、まわりみちですが、プロフィールになるかもしれません。ご覧になってくださるとうれしいです。


【詩の紹介】

百日紅

くれないをかたったひといきれのなか、風の夕映えがもとめられた。
うけいれてはわかたれてゆく、親密さが落ちていたような気がした
ので、ふりかえるのをやめてみる。いない羽が長くなり、くずれた
雲がわたるのだった。いそぐ男がいれかわり、たちかわり。きっか
けがつぶさにながめられていた。物売りめいたにおいもまた、ひと
けのなさからたゆたってくる、とかんじたのは錯覚でしたか? 衣
服のみだれをなおしながら、旅の目的をなげだす女がいた。百日紅
はあがなうようなまなざしで、夏をとむらっていたんです。忘却に
せきたてられ、嗅ぐようにして男を欲した。行方と方角がないまぜ
になり、接点のようにさそうから。夕暮れとは何時のことをさすの
でしょうね。うごかない日々を日記にちりばめ、地図をひろげる女
もいた。あて先不明のものがたりが、夜からぽっかりとうかびあが
り、男たちをふるわせる。うしなった重さがのしかかり、ちがうわ
かれをはぐくんでいた。そめたようなまがまがしさ、とある者は顔
をそむけ、べつのある者は旅装をとく。日録はたそがれにおもむき、
逢瀬をゆめ見ていたのかもしれなかった。地平線がここからではみ
えません、だから結末がわかりません、いえ、だれもあなたをせめ
はしないのです。だからどうか、どうか。さんざめく日没、肯定し
ていたわけではなかったが。日々の出立、それが夕景の合図だった。
ふりほどく、のではなく、すべるということ。重なることが越境な
のだと、秋が彼らをはがしてゆく。鋭利さすれすれに、つかのまの
胸がしなっていたのがもどかしい。雲へむけられたはじまりは、い
つだって抱擁よりもたどたどしいから。ひとごみにともるように咲
いていたのだと、案内人としての地図をしまい、息苦しさにたちか
える。男のようにたぐる肌、そまらない息づかいもまた、たぶん。
見送るにおいを風がねがった。おわりの花が燃える地面だ。


(『COAL SACK 』53号 二〇〇五年十二月)


パンドラの雪

雪の時間をはかっていた。檻のような出会いの途上の、かけらから
の出立だった。きしんだ音をつむぎながらの、船のようなあしどり
だった。かたむく道をつのるだろう、かたちのうしろを舞っている
のでやりきれない。枝のゆくえがほのかにさわぐ、桟のいたみを眠
るのかもしれなかった。日々のうすさが軽やかになり、景色のこと
ばをわたっている。
しめった降りかたがあなたをちがった。夜更けのような無防備さの
まえで、柵の感覚がもたげてもきた。枯れたつもりかたにくるまり
ながら、さいごを通過する思いがしずむ、またのぼる。たたまれて
いた、期待だったか約束が、荷物のひとつを置き去りに。帰らない
ためのまなざしが、雪片めいて自由になる。
ねばつく白さがこがれている。うもれた香りだけがついてくるのだ
と、島のかたちでつげるのだった?とりぶんだけ居場所がなくな
る、崖のようなかれらがいとしい。離反の群れにぶれていたのはわ
たしだから。かくれることが急いていた。みられた夢が降りすぎる
ので願わずにはいられない、箱庭のような人肌だ。
囲いをくくぐもる息のはがれる。遠さのなかでよりそっている、ふ
ぶいていたのはいないひとりだ。つもる途中で思い出になり、とけ
た記憶にとじてゆく、それは他人の場所だから。かじかむ声が舳先
のようだ。ふりかえり、かえってくるためにはなれた遠浅。まもな
くふるえをつないだひとびとのほうへ。土の露出がたちきるきずな
が、手招きのようにあたりを照らす。
とりまく景色がもどっては、港のてまえでくずれている。希望のな
さがあざやかになり、かれらにまぎれたそのかたわらで、柵をひき
よせるのはだれであったか。船の視線が来しかたをつらぬく、耳た
ぶ付近であわだつ声が、ちぎれんばかりに覚醒だった。あなたをし
らない出会いが呼ばわる、雪のうらにことばがつたった。


(『COAL SACK 』54号 二〇〇六年四月




きずのあとさき

くぎった視界がささくれだった。はじまりはうずまきながら霧散
したのだろう。あとずさりのなか、わきをこするように肩をおと
し、おぼえた気配をあたためている、あれは傷をしずめたひとだ
った。しらなさすれすれにかわきながら、したたる音色が身近だ、
からわたしも。
したしさのなか、やましさのないどんな場所でも、くるんだこと
ばはふくれつづけ、明日以降のおびえをつなぐのかもしれなかっ
た。よどんだ岸をうたっている、日々をとどまる方法につけくわ
えられた汗をなぞる。かれをよぎるのは、たいていいたはずの日
時だった。
あたためたものが波紋をながめ、つむぐようにたちきれる、そん
な千鳥足がのぞまれていた。起きるすれすれのまさぐりだったか
が違いを手にし、なつかしみながらたたむだろう。刹那をもたげ
たゆるやかさについて、はげしさがこなごな付近でくるまってい
たともきく。比例にくらんだ眼のきわで、おぼれるような声がは
しった。
ますますゆらぎ、だが遠方とつりあいをとり、さざめく端からふ
さいだ耳をひろいたかった。切れ間のおびただしさがとどかない
ので夢のむくろ。うずたかくつまれ、かわいた傷をひびきにくく
する、あの反面をくるめばよい、そうあともどりがよんでいた気
がする。役割をわすれたようにちらばる日付にたおれなかった背
すじがふりむく。
無口をやどした笑いがおこり、さざめく円環にうしろがみえない。
名前をわすれたいたみに浮上するひとがまたれていた。岸をなで
る水温が鏡のように修正し、つたない思いをよびよせている。交
接のなかではじかれた、肌にみちのりがあっただろうか。残像の
ほどいた距離がおびただしい。まざった音階がうすれる、のでむ
せるわたしの。


(『COAL SACK 』55号 二〇〇六年九月)


 


影街


恋のような淵のさなか、つらなる入り口をうかがっている。ひきずられた突端だった。きざまれつつ、筋交いたちはあつまるもの、と街はつぐみ、影におおむねのあらがいをほうりこむ。にじんだ地下はかまびすしい。ふんでみよう、この少年たちは柱にそってわたしたちをきりとり、区画のおきてにうめてしまおうというのだろう。とりかこまなくては、でれませんから。


恋のような縮小があり、はみでた修復が水泡を、やけに赤裸々にたばねたようだったので、後ろ手にたわめ、ほとぼりをさまそうとしたんです。風紋のような街路樹たちが、おとこの影法師をつらぬいた。あるいはやわらかな羽交いじめが少女のなかでもてあそぶ。けんけんぱ。ながれたあなたがかたまりたい。


くだけた恋が、皮膚にはりつくモザイクだった。おんなのまるみはすきまにたまり、うねる壁をつぶれそうだがたもっていた。あの川がとなりとの線をひく。わたしたちは濃さにそってあらうだろう。その寸断から、はみだしていたのは投影だから、はなれた場所はいつもちがった。あなたをくろずんではいませんでした。たなびくままにわれてゆく、熱をむさぼるかげろうもいた。


暗がりをひきずって恋、四隅にこどもをたたせるだろう、かしら。港のようなしたたりに、街たちは人影を、そのかなしみをぬぐっていたのかもしれない。とどかない分解のわきだったかで、わたしはあなたをしっていました。整備されたいしずえにまつわる、跡地たちがおとこをよびとめ、ほりおこすことにくぎをうつ。いきなかったこどもは始終やさしい。


したい恋にはずむ波は、遺跡のようにさらすだろうか。陰影のうちあげられ、少年のかたすみにふくらみつづけ。だしてみようか、わたしはそれにさわれない。さびた時間にはしった予感は、とうからここにいたのですから。街のつめたい縮小たちにのこったおんなは、根づいたあたりでながめる区切りだ。


しない恋におひれがいじられ、かたい少女をほぐすだろうか。矩形にはぐくまれた凪のむこうで、街に巣くった風穴だった。あなたをたらすように去来する、おとこにうずめる柱がなごりで。ひしめいていたなげきはつもり、いまではきっとぞっとしない。失神された筋交いに、あのこどもをさがしてみよう。影ふみたちのおちない井戸にかえさない、ほとばしる遊戯がわたしをはじいた。


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コールサック最新号

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「COALSACK」 (石炭袋)72号 2012年4月26日

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