「コールサック」日本・韓国・アジア・世界の詩人

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鳥巣 郁美 (とす いくみ)

<経歴>

1930年、広島県生まれ、兵庫県西宮市在住。

詩集『距離』『時の記憶』『原型』『影絵』『春の容器』『背中を』『灯影』『埴輪の目』『日没の稜線』『冬芽』『浅春の途』『鳥巣郁美詩選集一四二篇』

詩論エッセイ集『思索の小径』。

日本現代詩人会、兵庫県現代詩協会、会員。

「コールサック」「西宮文芸」に寄稿。

<詩作品>


はにわの眼


わたしは
はにわの眼のように
何もかも吸い込んだ


わたしの行方にあるものに
ひとつずつ
急な速度で
近づいていった


はにわの空間が
無限につながってゆくように
わたしの心も
常に
限りなくひろがってしまう


はにわの眼のように
いつも開いていなければ
がらんどうの空間になるから
わたしの眼は
またたくことが出来なくなった


おびただしい霧がとおっても
くっきりときりとられた
はにわの眼は
いつも乾いていた


はにわの眼がぬれないように
わたしの眼も
おびただしい涙の中で
うるおうことが出来ない


晩 秋


 秋が了る 野の色も了る 部屋の中にはストーブが輝いていた。燈色は激しくさまよい 炉の中でそれはゆらゆらと蘇っていった。生命をひきついでいたのか またたきもなく ほの白く化石してゆく焰を包んで それらかけめぐるものは何であったか 了りない夢を燃やして 外にはいちめんの曠野が拡がり 野の果てをとぼとぼと歩んで いくつもの生命が墜ちていった。深い谷間を擁して 土が盛りあがってゆくとき 谷底をかすめて 叫びであったか ほそぼそと反響する冷たい気流に埋められ 喪われたものたち 色彩を没してその谷底にひっそりと積まれてゆく夜。


 夢のなかから焰がみずうみとなって押し寄せてくる ひたひたと打寄せる渚に けれどもそこには生棲が奪われ 灼熱の頂点が結ばれていった。


 土と空と水のふれあい。二つの世界が歩みよるとき 乱舞しながら呼びあうものの 土は動くことが出来ない たわむれているのは みずうみをとおく離れて 呼び戻せない泉の それは末端でゆらめく態であった。


 泉よ いま暮れようとしている季節に 生命があかあかともやされている 炉の中にはじけて更に白熱するのだ ひとつずつ核にとどいて 了るために装われたいのちを 空と水がたわむれる渚にむなしいふれあいが繰返される。一瞬の幻影のように焰は過ぎ去っていった 空と土の交歓のひととき 陽の源をたぐって近づいてゆくのだ 輝くものを 了りないいのちを 希いであったか。焰よ 一瞬と一瞬のすきまで 核芯は常におおわれている 枯れ朽ちた野の色のように それら灰色に埋められた匂いの 奪われた棲家に すべての生が黙してゆくとき。


 篝火はしずかに燃えていた。野の一隅に沈んで 営みを終ったものたちの眠りに ゆっくりとかぶさってゆく焰の 燃えつきるのは 蓄えた生棲の日のはげしい乱舞の証しにも似て。陽のなかで炸裂している泉のようにつきない焰を 秋の野は谷間に陥ちこみ 喪った季節の重みの源を手探りしている。瞬間をたたえて その高鳴りを一角にかかげて 魅入られたひとつの生命がもえつきてゆく 秋の了りの野の果てにしろい呼気をかすめて 山裾で灯が点在している 呼びながらぬくもりを喪い 季節はゆっくりと回転している。裸木を埋めて 野がひとつの窓に収歛する宵 すべての了りに 炉のなかでただとろとろと燃えるほのおの あつめられた希いの 闇のなかにふるえる隔てられた了りないよろこび。


 眠りをこえて凍結する野に胎動のぬくもりをかかげて わずかにゆらめく焰が 奪われた曠野の一隅を際立たせてゆく。



埋み火


 目をつむると 何もかも浮かんでくるようなそんな時間がある 心のなかで入り乱れるかたち ひとであり もの云わぬやきものであり 植物であり あるいは闇 あるいは真昼 わたしが闘いつづけたいくつもの塀 白壁 それはしかし どの一つもわたしを隈どりはしない やたらと入り乱れて ふいと消えてしまう 冷い真昼 なまあたたかい闇 その中にわたしがすっぽりとはまって 出会ったひとつびとつのかすめる肩先に驚き 消えてしまった形骸をひき寄せている わたしの前には定めない時間がゆき交い 押し黙ったふたつのかたちが乱舞してゆく 姿あるもののなかでだけ羽搏いている生 かたちはふいと消える 生きものも土も ふいと輪郭をとり去られてゆらぎなおしたかたち
 それは誰のものでもない わたしがゆさぶったのでもない 輪郭のないひとと土との ひそやかなふれあい 乱舞の稚いよろこび


 やきもののにぶい赤銅の肌に落された微曛 まあたらしい炎のかげりであったか もえひろがった土の とめどなく呼ばれたいのちの 頑な集結 我執のそのひとときにゆらいだいのちは ひとの 緑葉の 炎のない肉片をあおって いまそれらは姿を喪い 一片のいのちとなって舞いあがってゆく 共に乱れて呼び醒ました闇のぬくみに ひき寄せられて灯した明りの わたしのなかに照らした白壁 ひきまわした石塀の一隅にうずくまっている その装わぬしずまり 月日を じっと在りつづけた長い月日を 白壁の面に蓄え 端然と占められたかたち 乱れを呼ぶぬくもりを映して なおしずまってゆく白いひろがり 肩先をかすめてふとともされた埋み火 土肌を隈どった我執の はげしい乱舞の出会い とおい旅立ちを繰返したいくつものかたちとの


 それは呼び戻したいのちのかたわれ 落された鉛の重さの 沈黙がふともえあがってゆく 生きものと土とふたつの世界の もろもろのかたちが目の裏側で炸裂している


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