「コールサック」日本・韓国・アジア・世界の詩人

前のページに戻る


芳賀 稔幸 (はが としゆき)


<経歴>

1954年、福島県いわき市生まれ、同市在住。

詩集『ゆもとの暮鳥さん』『サイフォン』『たゆたう』『チャルカまわってる』『広野原まで―もう止まらなくなった原発』

日本詩人クラブ会員。

<詩作品>


広野原まで



鉄道が再開された日


ひろのはらからは
酸化したレールが夏草の茂みに真っ赤になって消えていた


誰も住んでないはずの警戒区域の中で
現職の東電社員二名が町議会選で上位当選、再選をなした


〈あっ、余震だ
トンネルを走り抜けるしかない


トンネルの出口は入口になった
ふたたび暗闇を走り抜けるトンネルになった


冷温停止させてもいまだ廃炉になる見込みなぞない
さらに北上して行かなければならないはずの唱歌ひろのはら


ぐにゃぐにゃのたうつレールの上に赤い信号が点灯していただけだ
津波は常磐線を横断していた


遺体の捜索は再開されてはいない
軌条の築堤に普通車や冷蔵庫、枯枝までが未だ引っかかったままだ


警戒区域の境界線では
若い警備員が防護服も着ないまま健気に警備に就いていた


近くのコンビニも営業を始めていた
きっと本社側の面子ってもんかも知れないが― 

〈また、大きな余震だ
頭上の高圧架線がズレ落ちそうだ― 


レールに脱ぎ捨てられた防護服
〈なんでこんな目に遭わされなければならないんだ


走り抜けるしかない
どこまでもトンネルを走り抜けるしか―




  2


あっと言う間だ
めっぽう線量が高い


第一原発までは目と鼻の先
ここはもう入ってはならないところだ


余りに悲し過ぎるなれのはてだ
置き去られているレールは


度重なる余震のふるいに掛けられ
それでも腐心の念だけは真っ直ぐを保とうとしているが―


忘れるな、福島原発は第一だけではない
いまだ廃炉が見込まれてはいない


若しも第二が冷温停止を成せなかったならば―
いずれにしてもヨウ素131被曝は免れられなかったのだ


どれ程の被曝線量だったかさえ不明なままだ
東電は自主避難の賠償金の名目にすりかえて知らぬ顔だ


家族一人当たりの将来を賠償する?
十八歳以下と妊婦が賠償対象者と来れば誰もが気づくはずだ


恩着せだ。甲状腺ガン発病の際の―
原発の交付金と同じなのは一目瞭然だ

 


 3


忘れたい気持ちとは裏腹に
忘れ去られたことにされる


漏れてながれ出しているのに
騙し続けては押し付けてくる


悪魔の笑いが木霊する
平和とはパラドックスだ


悪魔とのいたちごっこだ
悪魔が呼んでいる


悪魔の徒党が村や町に寄せては返す
ここだけいつまでたっても屈せられたままだ


どこも何も終わってなんかいやしない
一体、何と勘違いしていたんだ?


初めから墓穴を掘ってくれる見返りだった
凌辱だ


毒と知りつつ
たかり合わなければ生きては行けない凌辱


底が抜けて底無しの―
悪魔さえあきれはて驚いている


行き着く先は―
覚悟の上だぞ






前のページに戻る

出版のご案内

コールサック最新号

「コールサック」(石炭袋)117号 2024年3月1日

「コールサック」(石炭袋)117号 2024年3月1日

詳細はこちら


立ち読みサイト

facebook

twitter

コールサック社書籍 マスコミ紹介記事一覧

コールサックシリーズ ラインアップ

  • lineup01
  • 沖縄関連書籍
  • lineup10
  • lineup02
  • lineup04
  • lineup05
  • lineup06
  • lineup07
  • lineup01
  • lineup08
  • lineup09

ピックアップ

  • 詩運動
  • 研究活動
  • 出版活動
  • リンク集 詩人・文学・書店
  • 『コールサック』日本の詩人
  • 『コールサック』韓国・アジア・世界の詩人

編集部ブログ

  • 鈴木比佐雄 詩と評論
  • 鈴木光影 俳句と評論

ご注文について

  • 送料・お支払い方法
  • 特定商取引に基づく表記

ECサイト


Copyright (c) 2011 COALSACK Co.,Ltd. All rights reserved.