コールサックシリーズ

佐相憲一詩集
『時代の波止場』

寄せては返す潮騒から、若い魂の声のひびきが聴こえてくる。 緩急自在の語り口、豊かなことばによる多角的な展開。 横浜に生まれた作者が国内外を経て、現代の波止場に立つ。 そうだ。 〈希望〉とはたしかに〈前を向いている時の後ろ姿〉にちがいない。 (帯文:有馬敲)

A5判/160頁/ソフトカバー ISBN978-4-86435-084-6 C1092 ¥2000E
定価:2,160円(税込)

佐相憲一詩集『時代の波止場』

発売:2012年11月19日



【目次】

 Ⅰ

波止場
新宿区大久保界隈 
ネットカフェ       
ラッシュアワー       
秋         
帰り道      
夜の女のレクイエム      
オフィスレディは桜前線     
レストラン      
北新宿東中野の師走の夕暮れ  
腕時計           

 Ⅱ

海づり桟橋        
波音 Ⅲ         
波音 Ⅳ         
波音 Ⅴ         
波音 Ⅵ 
波音 Ⅶ         
波音 Ⅷ
波音 Ⅸ  
カルチエ・ラタン 
波音 Ⅹ       

 Ⅲ

深夜の名画座      
恋          
終点から       
夏の匂い        
環太平洋造山帯    
詩力発電         
野良猫の開港      
チューリップ       
波止場 Ⅱ     

 あとがき   



詩篇

「波止場」


夜の港に来ています

しぶきが
腹の底に響きます

鳩の公園から
霧の中の汽笛まで

夢ばかりみてきました

もしかすると〈希望〉って 
前を向いている時の
後ろ姿
なのかもしれません

昼間の喧騒も
闇の中でしずめられ
高層ビルや百円ショップや携帯メール

もまれて、もがいて、流されて、ぶつかって

そんな中でも
今日、どこかで権利を認められたひとがいて
今日、どこかで結ばれたひとたちがいて

海はつながっています

心の波打ち際から
今夜
各地のひとたちの
後ろ姿へ

この詩を贈ります

ラッシュアワーの駅で聞く人身事故を
ダイヤの乱れと苛立つ社会で
夢をばかにしないで生きるひとびとの
人生の波音を

わたしは大切にしたいのです


「海づり桟橋」


ガントリークレーン、コンテナ、タンカー、倉庫 
赤十字病院 
狭い路地を入れば谷底にスラムの名残  
昔のはしけ労働や木材運搬や運河の魚商売 
いまもさまざまな工場が立ち並ぶ
貨物列車引き込み線跡の雑草 
丘の上の青空 

そんな界隈
国際埠頭の裏側は 

海づり桟橋 

世界の海だ 

金属製の網目の桟橋は下が透けていて 
ゴオッ ゴオッ 
波しぶきが靴の下までとびあがり 
潮風強く
むき出しの海のただ中を歩いているようだ 

湾はぐるりと工業地帯
埠頭がいくつもあって
沖にとまる大きな船がこちらにもあちらにも 
合間を小さな船が通る 
塔には電光アルファベットの信号 
Fは入航・出航オーケーだ 
ずっと向こうの空港から飛行機が
どこへ向かうのだろう
港の団地の窓にはそろそろ明かりだ

桟橋公園には
かもめが旋回している
空高く、海すれすれに、速く、ゆっくりと
一羽一羽、自由に飛んでいる

人間はまだ決して自由じゃないが
自由ってどんなものか
荒波の海に来て
想像する

ぼくは釣りをしに来たんじゃない
感じているのだ

記憶の港の風景や
流れ者労働者たちの血の匂いや
変わって行った時代の痕跡や
世界の船乗りたちの交流や
生きていくことの厳しくて甘美なたたかいや
出会って別れる人びとの記憶

消えていったようで
消えていない
生きざまの
波しぶき

流れてきたひとつひとつの希望は
いつの間にか
くすんで、しみこんで
アパートのロマンスも、外国の音楽も、威勢のいい理想も
労働の証でさえも
さびしい音色に変わっていったか

だがそれは嫌な響きじゃない
愛すること、信じること、たたかうことの
旋律だ

海づり桟橋
窒息しそうな夢の魚を
深海に返しながら
ぼくは
夕暮れの風に
港まちで暮らした見知らぬ親しい人びとと
色あせることのない
〈明日〉の波を見ている


「深夜の名画座」


夢という言葉には
大きく分けて三つの意味がある

〈睡眠中の独自映画〉

〈願いや目標〉

〈はかなさ〉

夜中に世界地図を眺めると
いい映画が見られるのは

人類を美化するからではない

人類も自分自身も
はかないから
願いや目標が夜の海に船出するのだ

七百万年の人類劇場は一回限りの命の入れ替え制で
見たい映像が見られなかった人の方が多いから
シリアスも笑いも痛快もロマンスもSFも大河も
めいめい予告編のセリフをボソボソッと枕に
賢くなりすぎたアウストラロピテクスが涙をためて

だから地球は
順番に夜になるのだ

いっせいに夢を見て世界中が大雨にならないように

被災地のこどもたちの夢
原発ノーで手をつなぐひとりひとりの夢
反格差パレードで国境を超える若者の夢
老いてなお若い心で愛しあう人びとの夢
ひとり過去の海に船出して感慨にふける人の夢
ひとり闇の中で凍えながらあしたを描く人の夢
世界のどこかでいま命とりとめた人の夢
世界中の公園で日々遊んでいるひとりひとりのこどもの夢
いま困難な何かに立ち向かっている人の夢
じっと海を見つめている人の夢

今夜ぼくは
オールナイトで地球の映画館に座り
あしたのリハーサルをしながら
夢の波音を聴いている


「詩力発電」


最後は〈詩〉の心
いつだってそうなんだ

田畑で土まみれになって妻に微笑んだ万葉の人
〈外国が攻めてくるぞ〉と兵士にされて
別れの抱擁に詩をよんだ
外国なんか攻めてこなかったが遠くで死んだ

〈これからは豪族だお宮だ武士だ維新だ神風だ企業だ〉
教科書でページごとに過ぎていく二千年の世の中は
たった数十年を必死の命が時のしくみしか知らずに

冷害飢饉を嘆いた人に品種改良は遠く
年貢に苦しんだ人に人権宣言は間に合わず
ちょんまげのお侍は平和憲法を知らず
女工哀史の少女は有給休暇をもたず
軍国少年はまさか韓流ブーム日中友好パンダとは
結核お母さんはまさかワクチン簡単治療とは
焼け野原おじいさんはまさかお花見ブームとは

公害モーレツ会社はエコ・ブームを先取りできず
高度経済列島改造はバブル崩壊を想定できず
グローバリズムはワーキングプアをごまかせず
政界再編は財界マネーの檻の中
原発万歳は三・一一を直視できず

見えないものを見通した時
人間は真に人間になるだろう
見えるものしか見ないなら
いつまでも悲惨だろう

システムを変えるのは理想主義だと笑うが
理想を忘れたら人はおしまいだろう

夢見ることを捨てた人は悲しい
詩の心がわからなくなったエライ大人は悲しい

時代の前進を非現実的だというのなら
現実的とはいったい何だ
目の前の悲惨な現実を追認するのが現実的なら
非現実的おおいにけっこう
新しい現実をつくるのだ

歴史の飛躍はいつだって詩集のようだから
太陽だ 水だ 風だ 土だ 緑だ 
いよいよ生きものの
発見と想像と工夫と哲学と感動の
新しい
詩の時だ

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