コールサックシリーズ

下村和子詩集
『手妻』
藍は 人と同じいきものえ/そやから 人の思いも察するのやなあ/しおらしい気持で 着てあげたら/藍も 安心して 青を輝かせるのやわ
(詩「藍の魔性」より)


栞解説文:鈴木比佐雄
A5判/128頁/上製本
定価:2,160円(税込)

解説文はこちら

teduma

発売:2008年10月30日



【目次】


第Ⅰ章 藍のつつしみ


藍のつつしみ 12
藍の誕生 16
手に残るもの 18
秘めたもの 22
湖北の水 26
月光 30
みどり 34
藍の意志 40
私の一色一生 42



第Ⅱ章 手妻


藍の魔性 52
手妻 56
萬祝 62
祭 64
チュラ アイ 68
藍のある暮らし 72
青い白鳥 78
マリヤさまの藍 82



第Ⅲ章 甕覗き


甕覗き 88
青を着て 92
秘色 96
藍が消える日 100
地獄出し 102
ピカソの青 106
女文様 110
私の色 112



あとがき 120

略歴 122



【詩を紹介】


手 妻


三月の雨は 音を消して下りてくる
花咲く前の街に しっとりと降る
屋根を濡らし 道を落着かせる
そんな日は 外出するのも億劫で
私は 独り茶会をする
免状を持たない 私のお茶は融通無碍

  月の下で見れば
欠け茶碗も名器です
サイレンが鳴らない間は
私たちの時間ですからね
戦争が激しくなった頃
焼けだされた茶道の宗匠一家に
我が家の座敷一間を お貸ししていたことがあった
子供だった私は 側に座って
師匠と父の静かなお点前を見ていた

電灯を弱めた 影の部屋で見る
男二人の黒い背中が ずいぶん大きかった
縁側に敷いた赤い毛氈の辺りから
茶筅を動かす音だけが聞こえてきた
お茶は音でたてるのだと 独り 学んだ
悠然と茶を啜る父たちの姿は
私の理想になった

制限の中で 咲かせる華は甘い
江戸の庶民も なかなかの知恵者だった
税の取り立てがきびしく
奢侈禁止令の出た町では 
茶の湯も禁じられ
着るものは 木綿とされた

藍は絹と同じように 木綿にも馴染み
鮮やかな青を創り出した
藍と白のくっきりとした二色の世界は無限に拡がり
町人たちの遊び心は 江戸の粋を生んだ
高価な茶釜を染め込んだ夜具にくるまって
夢の中の大茶会と洒落た
隠し文字が流行し 恋しい人の名も
こっそり染め入れた
贔屓の役者の名を一文字
絵柄の中に もぐり込ませるのも一興
一本の横縞と六本の縦縞
合わせれば 市村羽左衛門
謎が解ければ 洒落者と 
秘かに通振りを競った

青と白で表現される世界は 自由自在
たくましく生きる庶民を
藍は後押しした

きっぱりと残した白の海で
藍は 奔放に
お喋りしている

*手妻…手先。手先の仕事やわざ。江戸の手品。
*57頁の一連…NHK「美の壺」に依る。

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