コールサックシリーズ

堀内利美日英語詩集
『円かな月のこころ』
冬の夜空に/ひとひらの/月の花びら/かがやいて/今日の命を/暖めている/今日の心を/暖めている//やわらかに/白い大地に/ふりそそぐ/キボウの光/三日月の影//満月になる/力みなぎる/ひとひらの/月の花びら
(「円かな月のこころ」より)
栞解説:吉村伊紅美(日本英詩協会会長)
四六判/160頁/ソフトカバー
定価:2,160円(税込)

解説文はこちら

madokana

発売:2010年3月25日



【目次】


著者のプロフィール  3


感謝のことば  4


序 詩  6


長詩「円かな月のこころ」  8


跋 詩  80


楽譜「おかあさんの花」
     堀内利美 作詞 堀内清治 作曲  84


著者の著書・翻訳書



 

【詩篇を紹介】


今夜は月が泣いている


冬の夜空に
ひとひらの
月の花びら
かがやいて
今日の命を
暖めている
今日の心を
暖めている

やわらかに
白い大地に
ふりそそぐ
キボウの光
三日月の影

満月になる
力みなぎる
ひとひらの
月の花びら


(「円かな月のこころ」より一部)

生きる喜びの原風景を詠う詩人
    堀内利美氏の日英語による長詩詩集『円かな月のこころ』

日本英詩協会会長 吉村伊紅美(侑久代)

  一
  英文学・英語文学者・日英語詩人である堀内利美氏の日英語による長詩詩集『円かな月のこころ』は、堀内氏の詩想と生き方の具現化した詩集である。『円かな月のこころ』は、堀内利美氏の日本語の詩と、著名な英詩創作者であり、翻訳者である郡山直氏がその英訳を担うというコラボレイションから成り立っている。英語詩の先達として活躍する両氏のこのコラボレイションは、わたしたちにその成果を見せてくれる。さらにコールサック社からの出版によって、今まで以上により多くの読者が堀内氏の詩に出会うことをわたしは期待している。
  堀内氏の著作物は、英語で書かれた詩集、小品集、エッセイ、日英語バイリンガルの小品集、そして日本語による詩集、エッセイ、小説、小品集、翻訳がすでに二十冊以上ある。中でもエッセイに分類されているが『英語文学のなかの心の風景』(リーベル出版 1998)、『新しい風雅の世界』(同 2000)、『思考の階段』(ほんのしろ 2005)は、英文学・英語文学の論文集であり、氏の文学への深い含蓄が迸った書物であるとともに、氏の文学論を網羅したものである。氏は今回の翻訳者である郡山直氏と同じく母国語でない詩人が書く英語詩の第一人者である。そして一九六七年秋に、日本英詩協会が創刊号を出版した英語詩の雑誌Poetry Nipponの創設メンバーの一人である。以来Poetry Nipponは、日本の内外におよそ三〇〇人の読者を有する英詩雑誌として、英語による日本人の創作を鼓舞し育て、発展してきた。
  堀内氏は、日本の作家には国際性が求められていると説く。氏の著書(『新しい風雅の世界』から引いてみる。「英語による日本の作家たちの創作は、日本文学を豊かにし、日本人の美的感覚や詩的感覚を世界の人々に明示し、ひいては日本文学の国際的特質を発展させるであろう。日本人が英語による創作を促進させるならば、東洋の心は、歪められることなく西洋の心に理解され、西洋のものと異なる「活力のある要素」を世界文学に与えるであろう。」と述べる。堀内氏と郡山氏とのコラボレイションである日英語詩集『円かな月のこころ』は、まさに二人の友情と日本人による創作英語詩が合体した詩集である。

  二
  本稿では堀内氏の詩を堀内詩として記述する。堀内詩では「命のちから・心のちから・気のちから」を支える三位一体の世界が描かれる。しかし生気をあたえるポエジー(命)、優れた心の糧であるアンブロウシャ(心)、命と心の霊薬のエリキサ(気)という概念を詩にすることは難しい。しかし堀内詩ではそれらの概念は思考の流れに沿って、窓からすーっと入って来る月の光のように軽やかに、滑らかに、リズミカルに詩に具現化される。堀内利美氏は、彼の詩想の概念を軽やかに滑らかにリズミカルに流れるように詩にする日本では稀有な詩人である。しかし軽やかに流れるような詩といっても、けっして軽快な言葉遊びではない。彼の詩には詩想と論理的思考の一致が見られる。つまり堀内詩には詩想の背景となす論理的な思考が根底にある。
  たとえば詩を読み、鑑賞しそして創造することの素晴らしさを次のように語る。「一つひとつの勝れた文学作品を心ゆくまで鑑賞し、それから更にすすんで、自分自身の文学の創造へ向かっているとき、思考と想像、知性と感性、精神と肉体はいっそう親密になり、融合して一体となり、内なる世界は広がり、高まり、さらにさらに肥沃になってゆく。そして、新しい光明のなかで、今まで見えなかったものが見え、聞こえなかったものが聞こえて、文学する心は、時には深い悲しみの雫に洗われ、時には宝石のような喜びの輝きに打たれるであろう。」(『英語文学のなかのこころの風景』)
  また作品を如何に読むかでは、「一篇の詩的作品においては、叙述を表現は密接に関連し合っているが、両者は区別される。叙述は外景と符合し、表現は内景と符合する。詩的叙述においては、言葉は単に事物を叙述するだけでなく、意味やイメージを人々の心に喚起する。したがって、もし読者が単に叙述だけを読むなら、読者は表面、または、その外景のほかは何も理解していないことになる。……海のように豊かな詩的作品の心髄にあるエッセンスそのものに到達するためには、読者は、思考と情緒と想像を自由に働かせて、叙述の中に表現されているものを余すところなく読みとるようにしなければならない。」(『新しい風雅の世界』)と述べ、読者に詩の読みによって生まれる楽しみを喚起させる。読み方によって読者は思考し、その後に自己の世界を生み出すことができると堀内詩は教示する。たとえば夜明けの光にふれて堀内詩は、「今日を生きる力」を次のような言葉で示唆する。
  
  カレンダーのない人生
  明日のない人生
  では
  秋の後に
  冬が来る
  とは限らない
  冬の後に
  春が来る
  とも限らない
  悲しみの冬
  苦しみの冬
  は
  真夏にもやってくる
  冬の後に
  更に厳しい冬
  が
  やってくることもある

  でも
  こころには
  人生の冬に堪える力
  が
  宿っている
  こころには人生の冬を春に変える力
  が
  宿っている
  この力
  を
  心の泉の水
  が
  ゆたかにしている  (「円かな月のこころ」5)

不条理とさえ思われる人生の厳しい現実に立ち向かうのは、「心に宿る堪える力」「心に宿る冬を春に変える力」「この力を豊かにする命の泉」であり、堀内詩ではこれらを生み出す生命力を自己と読者に鼓舞し続ける。では、この力の源はどこから生まれてきたのであろう。        
           
   三
  堀内利美氏は福島県相馬郡小高町で一九三一年に生まれた。両親の農業を手伝い、農業高校を卒業する。彼の十代は戦争とともにあるが、この時期に堀内利美氏は農作業の中に、詩を生みだす繭を育てたとわたしは確信している。そこから故郷のイメージとして、母なる大地である「みちのくと母」が堀内詩の基盤となった。農作業、故郷、母なる大地が堀内詩の土台を形成した。彼は詩「花と果実」で、村の若い人たちの多くは戦地に行っていたとき、わたしは父と母の農作業の手伝をするようになったと述べている。その農作業を通して彼は詩を耕す基盤を見出し、詩作と出合うのである。

  土に育つものの言葉は
  形であり
  色彩であり
  味であり
  香りである

 この詩念は
 時の流れのなかで熟成し
  「土を耕すことは
  心を耕すことである」
 という真実と
   「土を耕すことと  
 心を耕すことは
   詩的創造と符合している」
 という真実を
 わたしの胸に刻み込んだ 
         「花と果実」『笑いの震動』
         (コールサック社 2009)
   
  堀内利美氏は若いころの農作業を通し、「心に宿る堪える力」「心に宿る冬を春に変える力」「この力を豊かにする命の泉」を身につける。その後、キリスト教を大学理念の主軸とする東北学院大学に学び、仙台白百合短期大学で教職に就き、さらに米国(ミネソタ州)のセント・ジョンズ大学で学ぶ。セント・ジョンズ大学での生活を述べた件を紹介しよう。「アメリカのミネソタ州カレッジヴィルにあるセント・ジョンズ大学。教職員と学生の心は「祈りをささげ働く」というスピリットにおいて結ばれ、一五〇年の歳月をかけて築き、磨き上げてきた、この大学で勉学と創作に耽った二年間。これによってわたしの人生のプレリュード(前奏曲)は五十代にしてようやく終了した、という思いにかられる。」(『虹色の燃えさし』リーベル出版 1999)と述べるように、彼のこの二年間は、人生の中で最も美しい時間に満ちていた。二十年以上にわたって大切に暖め、育ててきた夢がセント・ジョンズ大学でひらき、実を結ぶ。彼はセント・ジョンズ大学で思索と詩創作の一致を体現する。さらに英国のオックスフォード大学エクセターカレッジで二〇世紀イギリス詩・アイルランド詩を研鑽して、その後のプロローグ(後奏曲)は美しい旋律を奏でるのである。
  彼の詩の基盤である西洋的なものと東洋的なものの育成はキリスト教への心射から生まれ、そして詩的バックグランドには常に、静謐な時空間に身を置く喜びと思索があった。堀内詩の持つ全てのエレメントを総括した作品が、今回の『円かな月のこころ』であり、八十歳の織音しのぶである堀内利美氏が「生きる喜びの原風景」を次世代に語る。堀内利美氏は月のこころに「生きる喜びの原風景」を託してわたしたちに語りかけ、わたしたちに思索を促す。
  さらに付け加えたいのは、言葉の持つ根源の意味を語る堀内詩は長い状況説明は必要としない。短さの中に言葉と詩想の本質をとらえようとしているからだ。また図形詩に寄せる彼の熱い思いや、聖書、讃美歌と彼の詩との関連は次の機会に置くことにする。ここに短さの中に凝縮する彼の詩想を、郡山直氏の名訳の妙とともに味わいたい。

  年とるごとに
  月のこころは
  明るさを増す
  
  the older
  the moon,
  the brighter
  its heart
  shines. (tran.by Naoshi Koriyama)

 堀内利美氏は次世代に自己の詩想を『円かな月のこころ』で語るが、それは終わったわけではない。彼はまだまだわたしたちに語り続ける。その心は青春のエナジーに満ち溢れ「心魂の安らぎの住処」に至る「時間の道」を、「思考 詩作 祈り」つつ、今日も明日も歩きつづける。

  暮れてゆく
  みちのくの
  空をみつめて
  しのぶの心は うたう

    きらめく
    星の光に
    やわらぎ
    いろめく
    いのちは
    こころの
    ひかりと
    響きあう
  
    柔らかな
    月の光に
    わたしの
    おもいは
    はなやぎ
    わたしの
    夢の光と
    とけ合う

  Looking up to the sky
  of the northeastern country
  at dusk,
  Shinobu’s heart
  sings.

   In the scintillating starlight
   My life expands, steps lively;
   Turned in harmony
   With my heart’s illumination.

   In the mellow moonlight
  My reverie is colored,
  Synchronized melodiously
  With the light of my dreams. (trans. by Naoshi Koriyama)



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