コールサックシリーズ

中林経城詩集
『鉱脈の所在』

「私」は鉱脈、そして「ぼく」、「あなた」。地球物質精神が存在の奥深くへと案内する。歴史・自然界を見渡しながら、生を見つめる。独自の手法で何重にも映し出されてひろがる詩情。まさにこの第一詩集自体が光る鉱脈だ。古典と現代詩が世界の視野でとけあい、ひろがる。

解説文:佐相憲一
四六判/128頁/上製本
定価:1,542円(税込)

解説文:佐相憲一はこちら

中林経城詩集『鉱脈の所在』

発売:2011年4月5日



【目次】

序詩 鉱脈

Ⅰ 蝶にいざなはれて

おとづれ
簇生
点綴
海の瞑想
寒極の夜
イワノフカ
夕べに
逍遙
大陸の夢
現成
禁区
廃市

Ⅱ 対岸から

対岸から
記憶の道

孤囚
セキレイ
花の行く夜
夜の意匠
帰幽
いとなみ

出発
人生の印象
記憶の岸辺

Ⅲ ことづて


浚渫
尖端

真相
汀で
近景

ささやき

冬の体験

ことづて

あとがき
略歴



詩篇を紹介

「おとづれ」


深夜
ひとりでに開いた 
ぼくの部屋の
顕世と幽世をへだてる扉
その指二本分の隙間から
出入りする

その顔には
なつかしいものの面影

鍵をひとつ
机の上に落として
去つてゆく

そこに何か
眠つてゐるらしい
丘の方へと。

 

「イワノフカ」


一九一九年三月二十二日
狂気の御旗をおしたてて
東方からやつて来た銃剣どもが
吶喊の声をあげた
森はいつせいにふり向いた
イワノフカ その美しい豊かな大地に
鉄の軍靴の軋みが轟いた
夢みる聖像は切り裂かれ
菜の花畑に翅は飛び散り
穴だらけの男たちの体を
冷たい風が吹き抜けた
突如現れた小屋地獄 そのなかで
七十二本の腕と
七十二個の耳が
生きながらに火葬された
いかなる勝利も
敗北もなかつた
帝国も パルチザンも幻だつた
ただ 白昼堂々の不条理と
煤けた尺骨だけがあつた
時をへだてて
明るい丘の上に
銀の十字架が立ち並んでゐる
こんなにも目を痛ませる湿原の輝き
けれども その光の届く
至るところに歌がある
アムール川を漂ふ
あたたかな羽毛に
受難の深さを知るひまはりに
あるいは涯しなく星が瞬く青空の下
娘と息子が鋤き返す
骨混ぢりの土くれに
歌ひそびれた歌が
 
*ロシア連邦極東アムール州ブラゴベシチェンスク郊外の村。
  シベリア出兵中の旧日本軍による住民虐殺事件が起きた。


「尖端」


たどることも
ままならない昔から
どこまでも
まつすぐに伸びてゐる
と信じてゐた
その矢先
不意に
切り落とされた
鉄棒のやうな
あるいは
意志のやうな
ぬばたまの尖端が
ぼくらの前で
ただならぬ
位置を占めてゐる
長いあひだ
まつはり続けた一念が
つひにこの場所で
突きつけられたと思ふなら
きみも決断の時機を
もうはぐらかすな


「ことづて」


ささやかな垣根に
花冠をふるはせて眠る
冬の薔薇

その上に
半ば閉ぢられた瞼
深い睫毛の縁に
ひと粒の滴を宿した瞼

私の姿を消し去つた
新月の夜更けを偲ばせる
瞼の

その滴が
眼尻をすべり
見知らぬものの待つ闇へと
したたり落ちるとき
あなたは気づく

諾ふやうに溶けてゆく襞の奥
花芯の先に残された
自分宛のことづてに


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