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石川早苗詩集
『蔵人の妻』

帰ってくるなり その話だった/今日搾った酒は/立ち香が素晴らしかった/味にも幅があっていい酒になった/遅い夕食 忙しく箸を動かす夫からは 甘い発酵の香りが漂う(「蔵人の妻」より)

栞解説文:鈴木比佐雄
A5サイズ 128頁 上製本
定価:2,100円(税込)

解説文:鈴木比佐雄はこちら

石川早苗詩集『蔵人の妻』

発売:2009年7月17日



【目次】

第一章 逃げる男

逃げる男 8
魔女の退院 12
八百比丘尼 16
鬼子母神 20
解き放つ 24
どうやら明日 28
永遠のアイドル 32
血を舐める 36
月のめぐり 40
最後の晩餐 44
台所にて 48
追いつめらレル 52
aの音から 56
雛を飾る 60
蔵人の妻 64
蔵は眠らない 68
ハマる 72
空梅雨 76

第二章 朝の音

Re:今日のパパ 82
父をつつむ 86
踵から 88
一斉起床 90
朝の音 94
草取り 98
桜のように 100
夢 106
静かな時間 110
握 手 114
原始の海にて 118

  あとがきに代えて 
     しきゅう日記 122


【詩を紹介】

蔵人の妻

 

帰ってくるなり
その話だった
今日搾った酒は
立ち香が素晴らしかった
味にも幅があっていい酒になった
けどそのあと粕をはがすのに
手間がかかって
それから火入れだもの
忙しいのなんのって
遅い夕食
忙しく箸を動かす夫からは
甘い発酵の香りが漂う

じゃあ今度は私ね
うん
近所の子供が遊びに来てね
うん
それから畑の小松菜が
うん
ウチの猫が野良と喧嘩をしてね
……
返事が途切れ
こっくりこっくり
手から落ちる箸―

起こすべきか
起こさざるべきか
好きな仕事に打ち込んで
幸せそうに疲れている我が蔵人
しかし妻の話を聞かないとは
ケシカランではありませんか
仕込みの続く半年間
ずっと一方通行なんて
私、家政婦じゃありませんことよ

一呼吸おいてから起こし
風呂に追い立てる
後で背中を踏みながら
たっぷり文句を聞かせようか

蔵人の妻の
忸怩たる想い
しかし発酵の香りは
好きなのである


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