コールサックシリーズ

全刊行書 年代別

未津きみ詩集
『ブラキストン線  ―十四歳の夏―』

八月/鮮やかに/黒枠で/太く/ 八月十五日//あくまで暑かった/八月/ブラキストン線で引かれてしまった/八月
(「ブラキストン線―十四歳の夏―
」より抜粋)

栞解説文:鈴木比佐雄
A5判/176頁/上製本
定価:2,100円(税込)

解説文:鈴木比佐雄はこちら

未津きみ詩集『ブラキストン線  ―十四歳の夏―』

発売:2010年7月23日



【目次】

Ⅰ ブラキストン線―十四歳の夏―

草々の風  8
さやぐ  14
玉蜀黍畠で  18
ブラキストン線―十四歳の夏― 30
八月の別れ  40
苦い八月 44
花の形で  48
たとえば ときには 秋明菊について  52
日々草々は  58
棒状に  62
天 馬  68
どこへ行くというのか  72

Ⅱ 帯の川

男雛から  82
古代のビーナス  86
五片の花びら  92
アオモリムカシクジラウオ  98
万年の言葉  102
板状土偶  106
紋 様  110
境迎えのとき  114
つづれ織り  118
ポトフ  120
帯千本展  124
帯の川  130
さようなら  134
Ⅲ 一月の桜  

たんぽぽ野行き  140
老いたる舞踏家  144
夏至祭  148
月見の宴  152
秋草一態  156
花々が哭いている  160
ムラサキシキブ  164
冬の芒  166
一月の桜  170

著者略歴   174


詩篇を紹介

ブラキストン線
    ―十四歳の夏―


 

   1  

トマトが真赤に熟れる
八月
夏休みの宿題絵日記が
どの頁も真白
母に叱られまとめ書きする泣きべその
八月
ネブタ囃子が聞こえてくる
血が騒ぐ                         
八月
青臭い匂いを放つ胡瓜
サヤインゲンが細身でいばり
さやの中でつぶらな眼が目覚めている
サヤエンドウ
八月
海水浴場で
泳いでいる間に盗まれちまったパンツ
小さな胸を痛めていた
八月
それでも美味しかった
よしず張りの屋台で
簡単服の裾を押さえ押さえし
熱々の小豆汁をすすった
八月
一日中遊び呆け
日暮れどきけんか仲間とのサヨナラが
さみしいと知った
八月
もの淋しげな風情で揺れている
もうとっくに咲いていたコスモス
八月
セーラ服をぬぎ捨て
戦争は勝つと信じて
農作業に駆り出されていた
八月
神風が吹くとどこかで信じ
どこかで否定し
眉を上げこらえていた
八月
あれらはみんなどこへ行った
十四歳の夏
一九四五・ 八・ 一五の日付線で
切断されちまった
八月
その日から決定的に
変貌してしまった
十四歳で暮れてしまった
八月
鮮やかに
黒枠で
太く
八月十五日

あくまで暑かった
八月
ブラキストン線で引かれてしまった
八月
棲息する地場が
天と地ほどひっくり返った
八月
背筋の骨が粉々になり
あたらしく組みかえられた
八月
モノクロで静止している
八月
あの八月十五日


憤怒の川のように
怒りの一束の麦の穂のように
闇から射してくる光のように
あるいは未来へ架けた虹のように
おまえを貫いた
潔い一線
ブラキストン線
胸高く帯にして巻いた
十四歳の夏 八月十五日
生きてゆく分布線を自ら引いた
分水嶺のように
国境のように
孤高を誓うおまえ
鎧冑で身を固め
両脚を開いて立っていた
健気な夏
身を固くして
胸に一輪の花を抱き
ブラキストン線に身をゆだねていた
あの日から幾十年
幾重もの帯で武装してきたことか
節操の筋をたわめ
背筋をなんど折ったことか
裏切りを重ね
繰り返すあざむき
嘘も方便とうそぶき
一行の詩を立てるため
一人の男のため
一枚の絵のため
巻き重ねる帯
そのたびごとにブラキストン線を移行
国境をさまよい
分水嶺をこえ
みにくく太ってきたおまえ
いまこそ
海に向かい
一枚いちまい
剥ぐがいい
津軽の海に向かい
虚飾にみちたゴブラン織りの帯を
穢れた下帯を
裸身になるまで脱ぐがいい
恥部をさらすがいい
含羞の一線
ためらいの一線
生存地帯の一線
はじめてやってきた
処女地の一線まで


   * イギリスの動物学者、トーマス・ブラキストンによって設けられた、津軽海峡を東西に横切る動植物境界線。ブラキストンは日本の鳥類を研究し、そこから津軽海峡に動植物分布の境界線があるとみて、これを提唱した。

         

前のページに戻る

コールサック最新号

coalsack72

「COALSACK」 (石炭袋)72号 2012年4月26日

特別インタビュー
「小説家・早乙女勝元さんに聞く」掲載

詳細はこちら


コールサック社書籍 マスコミ紹介記事一覧

コールサックシリーズ ラインアップ

  • lineup01
  • lineup02
  • lineup03
  • lineup04
  • lineup05
  • lineup06
  • lineup07
  • lineup08
  • lineup09

ピックアップ

  • 詩運動
  • 研究活動
  • 出版活動
  • リンク集 詩人・文学・書店
  • 『コールサック』日本の詩人
  • 『コールサック』韓国・アジア・世界の詩人

編集部ブログ

  • 鈴木比佐雄 詩と評論
  • 佐相憲一 詩と評論
  • 装丁部のブログ

ご注文について

  • 送料・お支払い方法
  • 特定商取引に基づく表記

Copyright (c) 2011 COALSACK Co.,Ltd. All rights reserved.