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直原弘道詩集
『異郷への旅』

異郷が実は同郷で、同郷が即異郷。つまり詩人は境の仕切り線など持たずに無限の旅をしている。
そこに、すさまじいほどの「生きていること」への森厳な詩群が起立している。深い感動が間歇泉のように湧出してやまない。
(帯文 山本十四尾)

栞解説文:鈴木比佐雄
A5判/152頁/ソフトカバー
定価:2,100円(税込)

解説文:鈴木比佐雄はこちら

直原弘道詩集『異郷への旅』

発売:2010年10月16日



【目次】

Ⅰ章 異郷への旅

記憶の意味       8
わが祭り        12
滅びの村        16
夜明けの鴉       18
緑色の蚕        20
峠を越えて       24
神仙が棲んでいた渓谷  28
雨の麗江        32
M高原にて       36
六甲山麓        38
半獣神の午後      40
仔象の春        42
蓮の花季        46
邪宗の徒        50

Ⅱ章 地下幻想

六十年後の夏      54
地下幻想        58
旗と歌         62
現代暴力考       66
鳥たちの気性      70
鳥たちへのエレジー   74
無名の……       78
砂嵐に埋もれる     82
褐色の大地       86
六月二十五日      90
回廊の五月       94
眠れない        98
わが桃源郷       102

Ⅲ章 悼み言葉

悼み言葉         108
安政生まれの曾祖母さん  110
帰 郷          114
「ひつじよ羊」      118
終末の日々        122
居なくなった       126
莉帆に          132
失速する春        136
田能の菖蒲園       140
アヴァンギャルド 考   144

    あとがき  148
    略 歴   150


詩篇を紹介


記憶の意味

気だるい夏の昼下がり
土間の裸天井の煤けた梁から
燕の巣を狙っていた大きな青大将が
どたりと落ちてくる
自分を支える手も足もないので
仕損じた蛇はきまり悪げに
のろのろと姿を消す

夕立を避けて駆け込んでくる行商人
煙草入れを下げてやってくる隣の隠居
表から裏へ駆け抜ける洟垂れ小僧や犬や猫
毎年律儀にやって来たツバメ
夜も昼も開け放たれていた
母屋の土間を
吹き抜ける風

あり様が変わってしまったのだ
他者の立ち入りを拒んで
ひとは扉を閉じるようになった
危険な知恵の鍵をいくつかこじ開けて
豊かになったと思い
かつての記憶の意味を忘れてしまった

炎天下に佇む廃屋の前で
二世代の季節の移りを想い
記憶の意味も失われたと
老いた少年がつぶやいている

 

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