コールサックシリーズ

浅見洋子詩集
『独りぽっちの人生(せいかつ)』

― 私は 今でも 夕日が 嫌いです//語気を強め 言い切る 石川智恵子 六九歳/東京大空襲訴訟で 証人尋問にたつ 彼女/打合せ場所を わが家にした 代理人の夫/二人の 傍らで 茶を入れながら/彼女の話に 聞き入った(詩「夕日」より)

栞解説文:鈴木比佐雄
A5判/160頁+フルカラー16頁/上製本
定価:2,160円(税込)

解説文はこちら

浅見洋子詩集『独りぽっちの人生(せいかつ)』

発売:2011年7月23日



【目次】


第一章 独りぽっちの人生―六歳の智恵子

夕 日
子 守
差 別
結 婚
祈 り


第二章 こわれた心―一歳の幸一

別 れ
子犬のシロ
こわれた心
幸一の戦後


第三章 うばわれた魂―三歳の由美子

叔母の背
伯母の家で
恐 怖

二行の命


第四章 三ノ輪の町で―八歳のマサヒロ

空 襲
母ちゃんと
三ノ輪の町
ヒロポン
アルコール依存症
家庭内暴力
別れに
マサヒロの心は


第五章 沈黙をすて―一二歳の紘子

炎のしたで
夜 叉
父の実印
涼子ちゃん! ごめんね
ありがとう
沈黙をすて

第六章 六六年目の おびえ―九歳の和子

六六年目の おびえ
戦争孤児の思い
小さなお母さん
震災によせ
戦争孤児茉莉
復興と平和を


跋文  原田敬三


あとがき
略 歴



詩篇

「夕日」


― 私は 今でも 夕日が 嫌いです


語気を強め 言い切る 石川智恵子 六九歳
東京大空襲訴訟で 証人尋問にたつ 彼女
打合せ場所を わが家にした 代理人の夫
二人の 傍らで 茶を入れながら
彼女の話に 聞き入った


三月一日 六歳の誕生日をむかえた 智恵子は
深川で 三月一〇日の 東京大空襲にみまわれ
両親と 二人の兄弟を 
亡くしたと言う


あの日 一二歳の姉に 背負われ
智恵子が 目にした 光景とは
焼けて小さくなった 黒い死体が
道いっぱいに 折り重なり
人が歩ける分だけ
脇にどけられていた
まさに 地獄だったと言う


一二歳の長女と一〇歳の長兄
智恵子が 生き残った
翌日 三人は
別々の親戚に 引き取られた
その日から
智恵子の 孤独との
戦いが   始まった


六歳の智恵子は
労働力には ならない
役に立たない
彼女の 食事は
小さい芋 一個か 
一握りの ご飯だけ
みそ汁の 味も 
お新香の 味も
知らないでいた


家に 居場所を 持てない 
智恵子は
夕日に 向かい
お父ちゃん! お母ちゃん!
一人泣きながら 
叫んでいたと言う

土手の夕日が 沈むころ
そっと帰り 部屋の隅に
隠れるように 
座っていたと語る


小学校に入った 智恵子に
姉の居場所が 知らされた
学校で必要な 一切を
姉から 貰うためにだ

小学校を出た 姉は
女中奉公で 給金を貰い
食べることも できていた


長く延びた 黒い影が
田畑にとけこみ
夕日の落ちた あぜ道を
智恵子は 姉の所に
行かなくてはと
心細さに ふるえ
涙をこらえ 一心に
歩いたものだと話した


明るい時間に 
姉の所に着くと
家に返されるので
夕日を背に 
暗くなってから
辿りつくようにと
子どもなりの
知恵だったと
苦笑した


六三年経った いまも
夕日は 智恵子を
幼い日の 不安で
寂しかった日々にと
引き戻す


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